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世界の環境関連ニュース(2022年6月第4週)
欧州ではプラスチック廃棄物の輸出が過去最低レベルになっているにも関わらず、リサイクル施設に送られる比較的質の良いプラスチック廃棄物が不足している事が、欧州プラスチックリサイクル業者協会(PRE)によって伝えられています。欧州政府がプラスチック廃棄物の域外輸出の規制を強化した事でプラスチック廃棄物の輸出は減少を続け、欧州のプラスチックリサイクル業者は過去4年間で設備容量を60%拡大してきました。2017年からのプラスチックリサイクル能力拡大には49億ユーロが投資されています。これは、以前からリサイクル現場の専門家が懸念していた事で、海外に輸出されていた質の比較的悪い物まで回収されリサイクル工場に送られる為、品質が安定せず歩留まりの悪さかから安定したリサイクル材の製造目標が達成できない、というものです。元々PETやPP等の比較的高価なプラスチック廃棄物が海外に高値輸出されていましたが、それらの流出を防ぐ意図が、逆にリサイクル工場に入るプラスチック廃棄物全体の質を落としている事が原因のようです。業界では、プラスチック廃棄物市場が複雑で断片化されている事から、トレーサビリティや分別収集を含めた包括的なデジタルシステムを導入する必要がある、としています。
▶ https://bit.ly/3QDKCbf
欧州の圧延シート/コイルといった鉄鋼製品が急激に価格を下げている事が伝えられています。ウクライナ戦争以降、3-4月は供給懸念から価格が上がり、在庫も積み増しされましたが、景気後退懸念から急激に価格を下げており、在庫が一定レベルまで低下した後に買いが戻るかどうかが焦点となっています。欧州のインフレは国内消費にリスクをもたらします。食料とエネルギーのコストが高いと、白物家電や自動車など、鉄鋼製品を利用する商品の民間需要が冷え込むからです。以前、FRB議長のグリーンスパンが「景気の先行指標は鉄屑」と述べて市場関係者を驚かせた事がありましたが、現物取引が優先の鉄屑価格が国際的に急激に下げている事は、景気の先行きをある程度示している可能性があります。
▶ https://bit.ly/3nkrFwx
欧州でもエネルギー危機とそれに伴うインフレに起因して気候変動対策への野心的な提案が弱まりつつある事が伝えられています。欧州では現在、炭素市場、エネルギー、輸送、森林に関する法律の大幅な見直しを議論しています。これは、温室効果ガスの純排出量を2030年までには1990年比55%削減するという目標を達成するためです。しかし、インフレとエネルギーコストの高騰の中で各国政府が政策を交渉するにつれて、政策をめぐる分裂は激化しています。これは、全体目標を達成する為に、削減し易い分野の法律は強化し、削減しにくい分野の規制の強化をややスローダウンする事に繋がる可能性が指摘されています。
▶ https://reut.rs/3bkkmSZ
ドイツの革新的タイヤ熱分解リサイクル企業である「Pyrum Innovations AG」が、ドイツの多国籍企業「Siemens(シーメンス)」とのパートナーシップを発表しています。Pyrumはシーメンスのデジタル化&自動化技術・製品を使用して、自社が持つ廃タイヤ(ELT)の特許熱分解の工場を拡張することが目的である、としています。リサイクル工場が個別の機器を連携し自働化する事は一般化していますが、シーメンスのようなIOT大手がELTの熱分解技術の生産システムの開発に参画するという事は、今欧州で言われているように、この分野が大きく伸びる可能性を示唆しています。同社の株式は、ドイツの株式調査機関により高く評価されている事も伝わっています。
▶ https://www.pyrum.net/en/for-a-cleaner-world-start/
6月17日に始まったバーゼル条約締約国会議の第15回会合(BC COP15)が終了し、付属書が改訂される事になりました。その結果、全ての電子廃棄物は、将来、原則的に「自由な貿易」が禁止される事になります。輸出を行う場合は、電子廃棄物が有害か無害かに関係無く『輸出国による通知と輸出前に輸入国で承認される(インフォームドコンセント条件)』必要があります。この改正以前は、「危険(有害)なWEEEのみ」が事前のインフォームドコンセントを必要としていました。無害のものは、基本的には「有価物」として地域の法律に従って輸出が可能でした。また、大きな変更点の1つは、どのE-WASTEが危険(有害)、非危険(無害)であるかを、バーゼル条約の付属書で再定義する事です。欧州ではこの条約改正によって特別な影響を受けます。欧州の法律は開発途上国への輸出禁止品に付属書IIの物品を含めているため、有害/無害を問わず付属書IIに電子廃棄物が規定される事で、EU諸国から開発途上国への電子廃棄物の輸出は完全に禁止される事になります(現在グレーゾーンで行われている、アフリカやアジア向けの膨大なWEEEの輸出が止まる事になります)。この改正は、「スイス-ガーナ改正」と呼ばれ2025年1月1日に発効します。今後唯一の「抜け穴」は、輸出業者が「修理目的での輸出」をする事で、契約内容が修理目的である事が証明できた場合です。早くもこの点が議論されています。
米国ナスダック市場に上場する大手電炉メーカーである「Steel Dynamics Inc.」がバイオカーボン・メーカーの「Aymium」と合弁会社を設立し、バイオカーボンの生産を行う事が発表されています。出資比率はSteel Dynamicsが55%、 Aymiumが45%で、合弁会社の社名は『SDI Biocarbon Solutions LLC』となります。工場の生産能力は年間16万トン以上で推定設備投資額は1億2500万ドルから1億5000万ドル、2023年後半の操業を目指しています。 スコープ1の温室効果ガス排出強度を20〜25%削減し、バイオガスの使用を増やす可能性を示唆しています。Aymium社はPEFC認定のバイオマスを原料として石炭やコークス等の炭素排出量の多い化石燃料の代替えとなるバイオ製品を開発製造しています。同社の申請済みを含む特許保有件数は250を超えます。
▶ https://bit.ly/3y0wDno
▶ https://aymium.com/about/
EUの閣僚は、域内の再生可能エネルギーの比率を2030年までに40%にする事に暫定合意しています。これは、再生可能エネルギー指令を改訂するための「一般ガイドライン」に合意したものです。ただし、40%という目標は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて採択されたRE Power EU計画の一部として欧州委員会が提案している45%を下回っています。またEUの閣僚はこの合意に満足しながらも、ほぼ全員が詳細について意見表明を留保しています。暫定合意に至る議論では各国の意見が対立し、加盟国の裁量を認めるよう求めるものもありました。
▶ https://bit.ly/3nmiVGm
米国でもほとんど報道されませんが、Boston HeraldやDaily Mailが追っている米国現政権の気候特使であるジョン・ケリー氏についての報道です。主要な国際会議では必ずプライベートジェットで移動する同氏ですが、スタッフやその給与の情報開示を2024年10月まで行わない事を国務省が示しています。また2024年後半まで、彼のオフィススタッフに関する詳細を共有することを拒否している事で、監視グループから訴えられています。以前公開された情報によると、ケリー氏は、銀行のグローバル諮問委員会の議長を務めたバンクオブアメリカから500万ドルの給与を受け取り、再生可能エネルギーポートフォリオを持つ投資会社ライズファンドから125,000ドルのコンサルティング料を得ている事が明らかになっています。気候特使に就任した際、国務省の倫理局からの指示で保有していた石油、ガス、電気、原子力などの企業株を売却する事で数百万ドルを得た事が明らかになっています。今週はこのニュースが米国の一部のケーブルネットワークニュースで放送されていました。
▶ https://bit.ly/3u9FoKN
▶ https://bit.ly/3bAj5rd
▶ https://bit.ly/3Ovey7W
カリフォルニア州議会では、プラスチック汚染生産者責任法である「SB 54法案」が提出されています。この法律は2032年までにプラスチック包装と食品を重量と品品目で25%削減する事を求めるという画期的なものです。この法案では、全ての使い捨てプラスチックがリサイクル可能、または堆肥化可能である必要があります。プラスチック生産者は2032年迄に全国レベルの6倍以上である65%のリサイクル率に達することを義務付けています。そして、全てのプラスチック包装生産者に、自社製品の廃棄物を管理するコスト負担を負わせます。
▶ https://www.sacbee.com/opinion/op-ed/article262966318.html
US Steelが新たな投資を発表しています。同社は、現在所有するアーカンソー州の電炉生産能力を年間300万トン増強する作業を進めています。6月28日に発表したプレスリリースでは、DRグレードのペレットを製造する専用工程(システム)を新たに構築する、としています。場所は、ミネソタ州の2つの鉱石施設の1つであるKeetac又はMinntacで、2022年秋に着手予定、投資額は1億5,000万ドルです。DRグレードのペレットは、直接還元鉄(DRI)またはホットブリケット鉄(HBI)プロセスで製鋼するための原料で、電炉に供給する予定です。新しいペレットは、DRIおよびHBIを生産する他社に販売するか、自社のDRIまたはHBI施設に供給する予定です。生産されるDRグレードのペレットは、USスチールの新しい製品となります。
▶ https://bit.ly/3I1p1p0
WEFが世界各国のインフレ比較を分析、発表しています。調査対象となった国の中では、トルコが最悪で、2022年第1四半期のインフレ率は54.8%でした。調査ではパンデミックの影響を受けた2020年第1四半期と直近の2022年第1四半期も比較しています。この比較によるとイスラエルが最高で25倍、ギリシャが20倍、イタリアが19倍、日本や中国は影響が最も少ない国の中に入っています。米国は、調査した44か国の中で13番目に高い率です。米国の第1四半期のインフレ率は、2020年の第1四半期のほぼ4倍でした。ウクライナ戦争は2022年第1四半期の最後に起きた為、既に戦争前にこのような高インフレが各国で見られたという事が示されています。戦争がインフレを加速した事は間違いありませんが、その前に既に世界的なインフレ基調が進んでいたという事です。
▶ https://bit.ly/39ZLvdN
6月30日に米国で気候変動対策に関する1つの大きなニュースがありました。米国の最高裁判所が米国環境保護庁(EPA)の権限の一部を制限する決定を下しています。既存の発電所の気候変動温室効果ガス排出量の基準をEPAが設定する権限を制限するものです。事件の発端は2015年にEPAが石炭火力発電所に対して発電量を削減するか、代替エネルギーを利用するように指示した事です。最高裁判所は6対3の判決で、石炭から再生可能エネルギーへの移行を目指して既存の発電所からの排出量を制限するためのキャップ・アンド・トレード規制の幅広いシステムを作成する権限は、「EPAでなく議会が持つ」との見解を示しています。過去20年間、米国の議会は独立した気候変動法案を可決する事が出来ませんでした。その為、当時の米政権は発電所からの温室効果ガス排出量を削減する規制を行う為に、1970年の大気浄化法を利用していました。現在、米国の最高裁判所の判事は保守派が多数を占めています。バイデン大統領は、この判決を「わが国を後退させることを目的としたもう一つの壊滅的な決定」との声明を発表しています。この判決により、既存の法律を使用して気候変動に対処するためのバイデン政権の選択肢は減少する事になります。
▶ https://cnb.cx/3NAx39w
▶ https://wapo.st/3I8ocLs
ロシアの天然ガスを失ったドイツ政府がヒートポンプの利用を加速させています。多額の補助金により戸建ての住宅への配備を進める事を提唱しています。ヒートポンプはエアコンに似た基本構造を持ち、ガスや石油ではなく電気で作動します。ヒートポンプは、構造が複雑である為、ガスヒーターやオイルヒーターよりも大幅に高価です。設置もより複雑で時間が掛かります。ヒートポンプは建物の外に設置し、建物内部に熱を送る為、建物の機密性が重要となります。他の商品と同様に労働力不足、サプライチェーンの問題、原材料の高騰等により、製品の値上げに直面しています。ドイツには既に3万機の陸上風力発電機がありますが、最近、更に3万機を追加する計画も発表しています。ロシアのガスに依存しエネルギー危機の影響を最も受けているドイツは、政策的にもなりふり構わず、という事を垣間見る事ができます。
▶ https://bit.ly/3OynTvO
自社が開発し特許を取得している特殊な湿式精錬法(RecycLiCo)を有する廃棄LIBのリサイクル企業である「American Manganese Inc.(カナダ)」が社名を自社の特許プロセスの名を冠した『RecycLiCo Battery MaterialsInc.』に変更することを発表しています。American Manganese Inc.は、カナダのベンチャー市場に上場し、リチウムイオン電池をリサイクルする湿式製錬工法を開発する企業です。同社の製錬工法では、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、アルミニウムなどのカソード材料の金属を最大99%抽出します。
▶ https://bit.ly/3bzieqx