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NEWSCONの気になるNEWS(2023年6月第1週)
プラスチックを酵素(細菌)によって分解リサイクルする工法を開発しているフランスのCarbios社が、タイの石油化学企業でPET樹脂の生産世界No.1 企業であるIndorama Ventures Publicとタイでプラスチックのバイオ・リサイクルを行うMOUを締結しています。Indorama Venturesは自社のリサイクル能力を2025年迄に大幅に増強し、PETボトルで年間500億本、2030年迄に年間1,000億本をリサイクルする事を目標としています。Carbios社は最近フランスでの工場建設と研究開発の為に、フランス政府から総額5,400万ユーロの補助金を受け取る事を発表したばかりでした。酵素による分解リサイクルは、低エネルギーと環境負荷が少ない事から期待されています。
▶ https://www.carbios.com/en/carbios-and-indorama-ventures-reaffirm-partnership/
電池材料で韓国が中国依存を高めている事が伝わっています。今年1月から4月までに韓国が中国から輸入した製品上位5品であるリチウムイオン電池、酸化リチウム、水酸化リチウムなどの電池材料、IT製品、スマートフォン等が大幅に増加しました。4月までに韓国のリチウムイオン電池の中国への輸入依存度は95%に急増しています。韓国の5月の貿易赤字は21億ドルで既に今年の累積貿易赤字額は273億4000万ドルに達しており、昨年1年間の貿易赤字の総額の57%に相当します。今後、韓国は輸出よりも輸入の減少が大きくなり「不況による黒字」の可能性がある事が伝えられています。
▶ https://pulsenews.co.kr/view.php?year=2023&no=420376
今後、中国EVメーカーが欧州でシェアを拡大する事が予測される中、欧州の自動車メーカーで見解が分かれています。ステランティスは中国製EVの脅威を強調しており政策的な保護を要求しています。しかし中国市場に販売を依存しているベンツは逆の立場を取っています。米国のIRAのようなグリーン関連での保護貿易政策により欧州と中国の貿易関係が悪化した場合、ドイツの自動車メーカーが大きな損失を被る可能性があります。ベンツは毎年販売する車の40%近くが中国の顧客向けです。ステランティスは中国にあったジープの生産工場を閉鎖しており、今後も中国での事業を継続する予定はありません。この違いは特に市場性にあり、ベンツは高級車で大衆車を中心とする中国製EVとは競合しにくいという背景があります。この両者がフランスで共同出資によるLIBの工場建設を進めているという事も興味深い事です。
▶ https://cleantechnica.com/2023/06/01/europe-faces-a-flood-of-chinese-electric-cars-how-should-it-respond/
BRICSが共通通貨を模索し始めている事が伝わっています。共通通貨の目的は「一方的な制裁となった問題に関与していない国々が、二次的な影響を受け制裁の犠牲者にならないようにする事」、と説明しています。BRICS諸国は世界人口の41%、世界貿易の16%を占めています。BRICSの1ヵ国であるブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダシルバ大統領もドル支配の終焉を求め、講演で「何故全ての国が貿易をドルに基づいて行わなければならないのかを毎晩自問している」と述べています。BRICSの閣僚は「BRICSクラブ」への他国の新規加盟を潜在的に認める計画についても6月1日に議論しています。BRICSが経済的存在感と政治力を強める活動を本格化させ始めており、世界は今後10年位で大きく変わりそうです。
▶ https://www.asiafinancial.com/brics-looking-to-counter-sanctions-with-alternative-currencies
欧州では政治家や富豪によるプライベートジェットの利用について、何年も前から問題化してきました。6月1日にEU加盟27ヶ国の運輸大臣がルクセンブルクで会合し、プライベートジェットによる環境影響等、様々な問題について話し合いました。この運輸評議会に先立って、オーストリア、フランス、オランダは共同でEU気候変動担当責任者のフランス・ティメルマンスと運輸長官に書簡を送り、プライベートジェットの排出ガス対策は気候変動対策の為に必要である旨を主張しています。ただし、この問題は加盟国間でも温度差があり、ドイツやマルタは賛成していません。規制論が大きくなる中、脱炭素を進める欧州委員会はプライベートジェットに対する新規制を除外しています。この姿勢は以前から変わっていません。米国でも同じような批判があり、脱炭素一辺倒の政治的運動を行っているアル・ゴア元副大統領やジョン・ケリー気候変動特使は何度もプライベートジェットで大西洋を横断しており、保守派からも「偽善」と揶揄されてきました。今年2月には米国シアトルの高校生がプライベートジェットを利用する163人の2022年におけるプライベートジェット炭素排出量を計算したデータを掲載し、話題を呼んでいました。
▶ https://www.euractiv.com/section/aviation/news/commission-rules-out-new-private-jet-measures-despite-member-state-push/
▶ https://climatejets.org/
自動車メーカーが本格的に自社で自動車リサイクルに進出する事が発表されています。大手自動車メーカーのステランティス(世界3位:伊フィアットグループと仏PSAの合弁)とベルギーの金属リサイクル業者Galloo(ガルー)は、使用済み自動車から部品と材料のリサイクルを行う為の合弁会社を設立する為の独占交渉に入りました。この予備合意はステランティスが「循環経済」事業を拡大する戦略の一環であり、これには車両の修理や解体、部品や材料の再利用が含まれます。電化の急速な推進と世界的なサプライチェーンの問題により、特定の主要な材料や部品(バッテリー用だけでなく鉄鋼、銅等)の調達が以前に比べて遥かに困難になり価格も上昇しています。ステランティスとガルーの合弁会社は、所定の施設を通じて使用済み車輛を回収します。このサービスは今年末にフランス、ベルギー、ルクセンブルクで開始され、その後ヨーロッパ全土に拡大される予定です。ステランティスは2030年迄に車両に40%の「グリーン材料」を使用するという目標を設定しており、2030年迄に2021年と比較してリサイクル収益を10倍、部品収益を4倍に増やす計画を立てています。またサーキュラーエコノミー事業からの収益を20億ユーロ以上にする事も目標としています。高価な材料の塊であるEV化と、今年改訂案が発表される予定のEU使用済み自動車指令での拡大生産者責任の追加により、自動車メーカーは直接、静脈産業のサービスを内包する時代に突入する事になります。
▶ https://www.galloo.com/en/nieuws/stellantis-and-galloo-to-form-joint-venture-for-end-of-life-vehicle-recycling-
パリでプラスチック汚染に関する国際条約の多国間交渉が行われましたが、結局11月の第3回交渉には草案を作成する、という事以外、何も決まらずに終わりました。まず条約の合意プロセスについて分裂し、欧州や日本を含む50ヶ国以上は、賛成3分の2での多数決を主張しましたが、中国、ロシア、ブラジル、インドと、産油国連合の代表のサウジアラビアが「全会一致」の合意を求め、この議題だけで長時間を費やしました。しかし、この議題も結論が出ませんでした。注目されていた重要議題である、プラスチック生産量の削減、条約実施の資金、特定の使い捨てプラスチック製品の禁止、という3つの項目は殆ど前進がありませんでした。経済成長が著しく、石油化学産業への投資が加速するBRIC諸国はプラスチック生産量の削減に賛成していません。今回の国際会議の1つの特徴は、昨年のCOP27も略同じで、欧米が主導する「正義」のルール作り、BRICSも他国も単純に従わなくなっているという実態です。G7は世界のGDPに占める割合が1980年代後半に70%近くあり、90年代~2000年前半までは60%台をキープしていましたが、今や40%程度で人口も世界で10%を切っており、圧倒的な経済的リードを失う事と並行して、世界政治の中でも発言権が確実に弱まっている事が示された結果となりました。世界は急速に、確実に変化しています。
▶ https://earth.org/un-plastic-treaty/
インドの多国籍コングロマリットであるタタ・グループは、グジャラート州にリチウムイオン電池の製造拠点を設立する為に18億ドル(約2200億円)を投資する覚書を同州と交わした事が伝わっています。工場の初期生産能力は20GWhを計画しています。このギガ工場はインド国内で高まるリチウムイオン電池の需要を満たす為で、政府による電動モビリティの大幅推進政策に対応する為です。タタ・グループは傘下の英国ジャガー&ローバー(JLR)とLIB工場を建てる為の交渉を英国政府と行う事も伝えられています。基幹産業が自動車である日本にとっても、中国に続きインド資本でのEV基幹部品の内製化は、見逃せない出来事です。
▶ https://www.cnbctv18.com/business/companies/tata-group-to-set-up-rs-13000-crore-lithium-ion-cell-unit-in-gujarat-16838561.htm
欧州の政治が実はグリーン化に向けて一致団結していないというニュースです。先月、仏マクロン大統領は「(グリーン化への)規制拡大には一服が必要で、グリーン化の為の資金調達に問題が生ずる」という趣旨の発言をしました。その後ベルギーのアレクサンダー・デ・クルー首相もマクロン氏の主張に賛成し、「企業が環境基準によってこれ以上過剰な負担を負うべきではない」という事を主張しています。欧州委員会はこれら要人の発言に沈黙を貫いていました。これに対して、欧州委員会の副委員長で気候変動の責任者であるティメルマンス氏は「グリーン化への移行を遅らせるつもりが無い」事に加え、6月15日に欧州議会の環境委員会による採決が予定されている「自然再生法」を巡る現在の欧州議会の行き詰まりを激しく非難しています。これは5月31日に同法案を巡る議論から中道右派の欧州人民党(EPP)が交渉から離脱した事に対して行われました。EPPは同法案が食糧安全保障、農地削減、再生可能エネルギー導入への影響評価が不完全であると主張し、交渉から離脱しました。この法案により水へのアクセスにより大きな規制が掛かる事から、インフレとサプライチェーンの混乱から不安定な食料安全保障にも影響がある事が理由の1つとされています。スペインとイタリアでは、地方選挙と市議会選挙が先週それぞれ行われましたが、リベラル政党と左派政党が敗北し、政権多数を失っています。欧州政治における保守と極右の潮流は広がり続けており、現在の政策への人気は下がっている事が示されています。
▶ https://www.euractiv.com/section/energy-environment/news/green-deal-eus-timmermans-rules-out-break-in-the-green-transition/
欧州議会は、重要な原材料法に関する(報告書)草案を5月末に2回提出しています。この訂正草案に対し、欧州リサイクル産業連盟(EuRIC)が緊急のプレスリリースを出しています。プレスリリースでは科学的根拠に基づかない限り、リサイクル企業の主な販売製品である、鉄スクラップ、銅、アルミニウム/アルミニウム合金、銀、亜鉛等の材料を、重要な原材料法が規制するリストに含めるべきではない、との強い見解を載せています。草案の付属書には、現在提案されている原材料のリストのものが含まれています。欧州委員会は2023年3月に第5回目となる重要な原材料リストを発表し、新しく電池グレードのニッケルやマンガン、銅など複数の金属が加わっています。国境炭素調整メカニズムがスタートする事で影響を受ける鉄鋼やアルミ業界が中心となり、鉄スクラップやアルミを重要な原材料に含めるというロビー活動が続いています。今回の草案では、欧州委員会が将来、重要な原材料のリストを追加する方法が記載されており、欧州委員会が任意で重要な原材料リストに新規の原材料を追加し、そのスケジュールを決める事が可能になる文言が含まれていました。その事にEuRICが反応し、警告を行ったというのがこのリリースの主旨となります。廃棄物輸送規則、重要な原材料法、包装及び包装廃棄物指令の改定の何れも資源戦略と大幅な規制強化により、リサイクル業界の自由な活動を抑制します。鉄鋼メーカーの連合である欧州鉄鋼協会(EUROFER)が最近発行した2022年の年間報告では「鉄スクラップやニッケル等のグリーン移行に重要な材料へのアクセスを確保することは極めて重要であり、既に40ヶ国以上が輸出に制限を適用している現代社会では更に重要です。重要原材料法及び廃棄物輸送規則は、この状況を十分に考慮する必要があります」とのコメントを全面に出し掲載していました。鉄スクラップを重要な原材料として認めさせ、域内貿易に限定するという思惑が表れています。
▶ https://www.europarl.europa.eu/committees/en/itre/documents/latest-documents
欧州最大の経済大国であるドイツの苦境が伝わっています。ドイツ経済連盟(BDI)が5日に発表した調査の内容が伝わっており、BDIがインタビューした中堅企業の16%は、既に事業の一部をドイツ国外に移転し始めており、更に30%が国外移転を検討していることが判明しました。企業の約3分の2は、エネルギーと資源の高騰が喫緊の課題と回答しています。また経済停滞の原因の1つに高い炭素価格も挙げられています。BDIは企業向けの電気料金が永続的に引き下げられなければ、企業のグリーン変革は失敗する可能性が高く、この状況を改善するのは政治家の責任であると述べています。ドイツの大手経済研究機関であるIFO研究所は4月の段階でエネルギー集約型産業への投資が大幅に減少している事実を既に発表していました。これらの報告書で本音は語られる事が無いと思いますが、20年掛けて構築したエネルギーと原材料をロシアに依存し、製品販売を中国に依存した、ドイツ全体の経済モデルとそれに続く企業のビジネスモデルが崩壊した事は否定できない事実で、政治家が何かを動かして早々に変わるものでもなさそうです。
▶ https://www.reuters.com/sustainability/germany-launches-programme-help-industry-pay-carbon-free-production-2023-06-05/
持続可能なゴムのサプライチェーンに関する動きが徐々に始まっています。現在、持続可能で公正な天然ゴムのバリューチェーンを実現するために組織された団体として2018年に結成されたGPSNRがあります。GPSNRは世界の天然ゴム需要の55%のシェアを有する企業群による業界全体のプラットフォームとして立ち上げられ、現在は欧州のT&T等とも共同でワーキンググループを作り、ロビー活動をしています。これ以外に欧州が関係する国際的な持続可能性なバリューチェーンを構築する天然ゴムのプラットフォームが無く、他の原料に比べ立ち遅れている部分があります。3月には科学的なデータを基本として活動する国際的な保護慈善団体ZSLがレポートを発行し、不透明なゴムのサプライチェーンが森林破壊と生物多様性のリスクを曖昧にしている実態を公表した事が未だに物議を醸しています。この報告によればタイヤメーカーのピレリ、ハンコック、コンチネンタル等の大手企業は、熱帯林や絶滅危惧種に対するリスクを曖昧にしており、重要なサプライチェーンの透明性と追跡可能性を欠いている実態を示しています。評価対象となった天然ゴム製造業者の79%は未だ一次ゴム加工業者のレベル迄のトレーサビリティを公にしておらず、一部を追跡出来ると報告しているのは、ミシュランとブリヂストンの2社だけでした。これはタイヤメーカーがゴムの生産量の70%以上を消費しており、企業は同じゴム供給源へのアクセスを巡って競合する事が多く、サプライヤーの所在地を開示したがらない事が要因です。その為、サプライチェーンの透明性が欠如し、自然を保護する為に十分な事が行われているかどうか、明確になっていません。徐々に批判的な動きが加速しており、昨年12月に欧州で制定された森林破壊防止法の対象に天然ゴムが入った事で、事態が急変し始めています。
▶ https://www.zsl.org/news-and-events/news/opaque-rubber-supply-chains-are-obscuring-deforestation-and-biodiversity-risks
▶ https://www.spott.org/news/opaque-rubber-supply-chains-are-obscuring-deforestation-and-biodiversity-risks/
中国の新華社通信によって設立された金融メディアグループのChina Fortune Mediaが発行するチャイナ・セキュリティーズ・ジャーナルは、今年下半期に中国で利下げが行われる可能性が高い事を報じています。中国経済は高い失業率、地方政府に巨額の負債を負わせた不動産セクターの長期的な危機、そして地政学的な緊張の高まりにより、2023年Q2に入って勢いを失っています。中国は3月に今年初めて、融資コストを下げる為に預金準備率を引き下げましたが、米国との金利差が拡大した事により、これ以上の大幅な金融緩和の余地が限られています。中国内の専門家は今年Q4で米国が利下げプロセスに入る事で中国の金融緩和余地が広がると考えており、その時点で中国が利下げを行う可能性が高い事を指摘しています。足元で景気が悪化している中国ですが、利下げ余地が無い事が事態をより困難にしています。Q4に向け明るい材料が出ると、Q3から動く可能性があります。
▶ https://www.asiafinancial.com/china-likely-to-cut-rates-in-second-half-state-researcher-says
インドでバッテリー需要が大幅に伸びる可能性のある政策が発表されています。インド政府は再生可能エネルギー向けの蓄電プロジェクトを促進する為に4億5,520万ドル(約600億円)規模の補助金を提供する政策を実施する計画です。このプロジェクトは4,000メガワット(MWh)という巨大なインドのエネルギー増強計画の一部で、2030年迄に国の再生可能エネルギー容量を500ギガワット(GWh)まで増やす計画によるものです。現在インドの蓄電池容量は僅か37 MWhです。再生可能電力の供給を確保し、送電網を安定させる為の蓄電池技術は世界的に急成長する分野です。しかし現在、大規模な事業は殆ど存在せず、インドの取組は注目される事が予想されています。政府の資金と合わせ、この計画では民間企業からの560億ルピーの投資を見込んでいます。大手エネルギー企業であるリライアンス・インダストリーズ、アダニ・パワー、JSWエナジー等が大規模な蓄電電池工場を設立する計画を発表しています。どのような化学組成のバッテリーが製造されるのか、詳細についてはまだ明確になっていません。
▶ https://markets.businessinsider.com/news/stocks/india-unveils-battery-storage-subsidy-scheme-as-part-of-renewable-push-1032373928
欧州最大の鉄鋼メーカーであるアルセロールミッタルの北米組織ArcelorMittal North Americaは、スクラップを70%-90%使用した電炉を米国最大の自動車メーカーであるGMに供給する事を発表しています。製品はXCarb® RRP スチールと名付けられたもので、炭素低減の為にカーボンオフセットを使用せず、製鉄プロセスで再生可能エネルギーを利用しています。製造はカナダ・オンタリオ州のArcelorMittal Dofasco工場で行われています。ArcelorMittal Dofascoは、現在、直接還元鉄(DRI)と電炉による製鋼方法に切り替えを行っており、炭素排出量を約60%削減する変革を進めています。この移行が完了すると、自動車用鋼材を製造する在北米の全てのアルセロールミタルの工場は電炉を基本とした製造工程となります。高い品質要求のある自動車向けにEFAプロセスの製品を増やす動きは、今後も増える見込みで、電炉で達成出来ないものは暫く直接還元鉄と電炉と組み合せで進められる見込みです。ArcelorMittal Dofascoでは、天然ガスを改質した水素DRIプロセスのトライも行われています。
▶ https://corporate.arcelormittal.com/media/news-articles/arcelormittal-north-america-announces-supply-agreement-with-general-motors-for-north-american-sourced-sustainable-xcarb-steel
欧州の飲料大手企業が先導するリサイクル材含有のPETボトルの戦略が意外な側面を見せています。欧州のPETの輸入量は2021年~2022年に掛けて倍増して190万トンに達しました。EUへの主要な輸出国はインド、中国、トルコ、インドネシア、エジプト、ベトナムの順となります。輸入量と総需要の関係は2020年には欧州での総需要の23%が輸入に頼っていましたが、2022年には30%近くに伸びています。1つの要因は、rPETの輸入量が増加した事です。エネルギー価格、賃金コスト、環境対応コストの高い欧州では、安価な海外製のrPETに対抗できないという事情があります。その為、欧州のPETリサイクル産業にプレッシャーが掛かる結果となっています。欧州では2025年より飲料ボトルのリサイクル材含有率の目標が25%と設定されており、先行実施している大手飲料メーカーによる欧州内でのrPETの需要が高まり、2021年後半からrPETの価格が急上昇しました。結果として輸入rPETが価格競争力を持ち、輸入量が倍増したと考えられています。業界は欧州内で製造されたrPETを優先する規制を呼びかけています。欧米のCEが徐々に保護貿易政策を呼び込む結果となっている事は、自由貿易を推進してきた欧米にとって皮肉な結果となっています。
▶ https://www.recycling-magazine.com/2023/06/06/pet-imports-to-impact-eu-recycled-content-targets/
世界最大の鉄スクラップ輸入国であるトルコのリラは今年19%以上下落しています。エルドアン大統領が再選された後、予測されたようにトルコの鉄スクラップ輸入が再活発化し価格が上昇しています。しかしリラへの下げ圧力は止まらない状況です。7日には2021年以来最大となる7%も下落し、過去最安値を付けています。政府当局は既にリラ安定の為に数百億ドルの外貨準備を使い果たしました。更に選挙期間中に外貨需要が急増した為、純外貨準備高は5月に▲44億ドルと過去最低を記録しました。選挙中に誰が勝っても経済運営は困難を極めると言われていましたが、早速その影響の一部が出ています。アナリストはリラが外貨準備を反映する価格まで下落すると見ており、対ドルで25-28リラの範囲に向けて下がると予想しています。トルコ当局は海外投資家が数年に亘る国外流出を経て戻ってくる事を期待していますが、市場関係者は冷めた目で見ています。現在実施されている事実上の「資本規制」を止める方向に向かわざるを得ず、今後対外支援が無ければ、リラの切り下げを抑えるのは極めて困難な作業になるというコンセンサスで一致しています。トルコの5月のインフレ率は年率換算で39.59%でした。これは政府による天然ガスの無料支給が他の物品のインフレを相殺したもので、一段のリラ安がインフレを助長する可能性が指摘されています。ドル調達コストが上昇している為、スクラップ輸入にも多少影響が出ると思われます。
▶ https://www.reuters.com/world/middle-east/turkish-lira-down-7-biggest-selloff-since-2021-crisis-2023-06-07/
コペルニクス気候変動サービス(C3S)が発表したデータによると、5月の世界の海水温(水深10m、非氷表層地帯)は、観測史上最高値を記録したという事です。C3Sによれば、海面水温は過去40年間で0.6℃上昇しています。また太平洋赤道付近でエルニーニョ現象が発生し続けている事から、今後数ヵ月で海上の気温が更に上昇する可能性がある事を指摘しています。5月の特徴としては、陸地では平均気温はヨーロッパの殆どの地域で平年並み、カナダ、アフリカ、東南アジアの一部は平年より大幅に暖く、逆にオーストラリアとインド北西部からシベリア南部にかけては、平年よりも著しく寒い月でした。コペルニクスのデータは衛星、船舶、航空機、気象観測所からの数十億回の測定結果に基づいたコンピューター生成モデルに基づいています。海水温の上昇は災害に連動する事が多い為、注意が必要かも知れません。
▶ https://climate.copernicus.eu/copernicus-temperature-over-all-ice-free-oceans-may-2023-was-highest-record
米国が国境炭素税に向けて動き出しています。米国通商代表部(USTR)の長官は米国際貿易委員会(USITC)に書簡を送り、米国で生産される鉄鋼とアルミニウムの温室効果ガス(GHG)排出強度を評価する為の調査と公開報告書を要請しました。USTRの書簡には「米国とEUは鉄鋼・アルミニウム分野で協力し、世界的な過剰生産能力と気候変動から、労働者、産業、地域社会を守る共同の措置を講じている」と記載されています。具体的には両政府が炭素国境税に向けて動き出す事であり、他国からの炭素集約型の製品である鉄鋼やアルミニウム製品の取引を阻止し、国内産業の温室効果ガス低減に向けて支援する事が含まれます。これらの政策を世界的に取り決めていく事です。炭素集約型の鉄鋼やアルミニウム製品の貿易削減という目標が含まれる、米国とEUの協定は志を同じくする経済諸国に参加を呼びかけ、2023年10月迄に「世界協定」の交渉として妥結させる事を目指しています。鉄鋼製品とアルミに関して統一した原単位での炭素発生量を採用し、炭素税を互いに課す事で、国内産業を育成(保護)するという、一種の保護貿易化の動きです。欧米がこの協定を最初に採用する事で、将来「志を同じくする国」に日本は含まれる事になるかと推測します。
▶ https://ustr.gov/node/13071
太陽光パネルのリサイクルの課題について、一般紙のBBCまでもが大々的に取り上げるようになりました。太陽光パネルは今までもリサイクルの専門サイトで何度も課題として上げられてきました。世界で約25億枚が使用されていると推測される太陽光パネルをリサイクルするインフラは決定的に不足しています。パネルの耐久年数は約25-30年で、欧州では第一世代の太陽光パネルが今後大量に廃棄される事が予測されている事から喫緊の課題となっています。国際再生可能エネルギー機関の副所長は「今リサイクルチェーンを動かさなければ2050年迄に太陽光パネルは廃棄物の山になるだろう」と警告しています。問題は他にもあり、家庭用の太陽光パネルの発電ユニットは予想される耐用年数に達する前に発電能力の低下や老朽化の為に、経済的なメリットが少なくなる事です。その為10~15年で、より発電効率の高い最新機種に交換する方が、全体として安価になる可能性があります。2030年までに太陽光パネルのスクラップが400万トンに達し、2050年までに、世界中で最大2億トン以上になる可能性があるという事です。2030年までの対応は可能ですが、その後リサイクル施設の大幅な増強が必要になると警告しています。
▶ https://www.bbc.co.uk/news/science-environment-65602519
バッテリーとエネルギー貯蔵システムの中国の2社がベトナムで製造拠点を設ける為、10億ドル以上の投資を検討している事が伝わっています。1社はXiamen Hithium Energy Storage Technology(Hithium)で最大9億ドルを投資する可能性をベトナム政府に打診したと伝えられています。もう1社はGrowatt New Energy (Growwatt)で、投資額は約3億ドルと伝えられています。Hithiumは太陽光発電や風力発電所用の定置型エネルギー貯蔵製品を専門としています。ベトナムは再生可能エネルギーの成長市場ですが、電力網を強化する為のエネルギー貯蔵施設の許可に関する法案は未だ可決されていません。最近ベトナムで製造プロジェクトを立ち上げたり拡大したりする中国企業が増えています。
▶ https://www.channelnewsasia.com/business/exclusive-chinese-energy-storage-battery-firms-consider-big-investments-vietnam-sources-3547771
ユーロ圏経済の実態について、ロイターが分析した記事をHSNWが載せています。この記事の中でエコノミストが主張している「ユーロ圏の輸出主導型の古い成長モデルは現在機能不全に陥り終焉を迎えた。欧州政府が内需強化の政策に舵を切った事は良い事だ」という内容は的を射ています。ゼロ金利により「価値の切り下げ」へ依存し続けた10年は終わり、中国からの距離を置く事で世界が再形成されつつあり、今や(中国は欧州にとって)輸出市場ではなく、工業市場のライバルとなっている。その為、内需拡大へ切り替える以外にオプションは無く、転換で苦しむ事は良い事だ、としています。欧州経済については悲観論が多い中、ここで転換を図らない場合はもっと大きなゆっくりとした競争力低下を覆す事ができない、という趣旨です。パンデミックと戦争は「分水嶺」であり、経済の周期的な問題に打ち勝つ為に、経済モデル全体を変更する事を要求した、と結論付けています。1つの事例である、廃棄物を資源と捉え、輸出規制を行い、製品輸入には炭素税で対応するという「保護貿易政策」を生み出す副作用が将来どの程度一般市民のコンセンサスが得られるかが焦点になりそうです。
▶ https://www.hellenicshippingnews.com/euro-economic-misses-may-mask-pandemic-reboot-2/