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NEWSCONの気になるNEWS(2024年6月第3週)
トロント大学工学部は、鉄スクラップを溶解し鉄鋼を製造する過程で銅と炭素を電気化学的に除去する工法を開発し、論文として発表しています。電気精錬工法の一部となり、カソードとアノード間に酸硫化物を電解質として使用します。炉内で温度を1600度以上に上げる事で銅を電気的に分解して除去します。生成物として液化(体)の鉄と硫黄が製造されます。カソードとアノード間に電解質を利用し高温で不純物を除去する方法は既にありますが、この方法は酸硫化物質を電解質に利用する点が取組となります。この技術は鉄スクラップから高純度の再生鉄を作る為のもので注目されています。現在、鉄スクラップを溶解する為には電気炉が使用されています。溶解前に銅分を鉄スクラップから物理的に分離することが困難な為、リサイクルされた鉄鋼製品にも銅が僅かにが存在します。リサイクルするスクラップ金属が増えるにつれて銅の濃度は増加し、最終的な鉄鋼製品中の銅の濃度が0.1重量パーセント(wt%)を超えると、鉄鋼の特性に悪影響を及ぼします。鉄から銅を0.1重量%未満まで除去する為に、研究チームは先ず1600度までの温度に耐えられる電気化学セルを設計する必要がありました。この方法で生成される再生鉄の品質は非常に高い為、自動車分野で使用される亜鉛メッキ冷間圧延コイルや輸送分野で使用される深絞り用鋼板等、より高級な製品の製造に使用できる可能性があります。
▶ https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0921344924002489
プラスチックに関する米国の団体「米国プラスチック協定」はプラスチックの利用と廃棄物の削減に関する「ロードマップ2.0」を発表しました。これは企業が包装に使用するプラスチックの設計、使用、再利用の方法を変える最新の戦略計画となります。米国でのプラスチックとプラスチック廃棄物削減の取組は徐々に広まっています。しかし埋立コストの安い米国ではロードマップを作成し進捗管理をする取組は珍しい事です。今回のロードマップ2.0ではプラスチック包装の再利用、リサイクル、堆肥化の為の実践的な方法を明記しています。
▶ https://usplasticspact.org/
スペインで官民がコンソーシアムを組み、下水処理場で発生する汚泥の嫌気性共消化処理を通じて生分解性プラスチック廃棄物を回収し、ガス化処理を行うプロジェクトがスタートしています。資金はEUの2023年戦略的協力プロジェクトの予算から提供され、バレンシア競争力・イノベーション研究所(IVACE+i)を通じて提供されています。まず実験室規模での試験後にパイロット工場規模にまで拡大する計画です。都市の下水処理場から汚泥を嫌気性条件下で生物学的処理を行い、そこに含まれる様々なマイクロプラスチックの分解を研究する事がテーマとなります。海洋に流出するマイクロプラスチックは人類全体の問題として徐々に認識されつつあり、下水から流出するプラスチック汚染を削減する新たな取組となっています。
▶ https://www.aimplas.net/blog/project-converts-biodegradable-plastic-waste-into-green-energy/
EU議会選挙が終了したばかりですが、現欧州委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエン氏の再任阻止を求め、欧州人民党(EPP)の一部は来週ブリュッセルの裁判所に出廷(提訴)する予定と伝えられています。訴訟を起こす原告は、欧州人民党に対して、同氏を欧州委員会委員長の候補から外すよう求めます。欧州人民党(EPP)は今回の選挙後も欧州議会で最大の会派である為、ライエン氏の2期目にやや暗雲が垂れこんでいます。緊急手続きとして、6月21日にブリュッセルのフランス語圏第一審裁判所で公聴会を開く予定と伝えられています。前回2019年の選挙で巻き起ったグリーンムーブメントにより選出されたライエン委員長と、欧州グリーンディール担当執行副委員長のフランス・ティメルマンス(2023年8月辞任)によって、過去5年間行われてきたEUグリーンディールによる様々な政策や法律は、ライエン氏の再任が阻止された場合、大きな痛手となる可能性があります。
▶ https://www.euractiv.com/section/justice-home-affairs/news/breaking-epp-before-brussels-court-next-week-about-von-der-leyens-candidacy/
アメリカ石油協会(API)と複数の団体は、米国での厳格な排気ガス規制を阻止する訴訟を起こしました。現米政権による厳しい排ガス規制は「事実上、EVの製造と購入を義務化するものである」と主張しています。米国の環境保護庁(EPA)は今年3月に新しい排気ガス排出基準を発表しました。発表時に同庁は新基準は最も厳しいものであり、経費が節約され、雇用が創出され、数十億トンの二酸化炭素排出量が削減される、と述べました。APIとこの訴訟に参加した複数の団体は「僅か8年で殆どの新型ガソリン車と従来のハイブリッド車が米国市場から事実上排除される。EPAの規制は、消費者の需要をは遥かに上回っている」と異議を唱えています。全米自動車販売協会(NADA)も「この規則は定められた時間枠内で達成することは不可能であり、消費者が予算と交通ニーズに合った新しい車両を選択する能力が著しく制限される」と新しい排気ガス規制を批判しています。
▶ https://www.api.org/news-policy-and-issues/news/2024/06/12/api-coalition-partners-file-lawsuit-to-protect-american-consumers
ドイツの工業用レーザー機器大手のトルンプ(Trumpf)社は、レーザー技術を用いた世界初の工業用バッテリーリサイクル技術を開発したと発表しました。レーザーを使い銅やアルミ箔に極薄に塗布された活物質層を剥離します。レーザー剥離技術は過去よりありますが、バッテリーの極材に実用レベルで利用するのは初めての試みとなります。また手解体工程を最小限にする為にレーザー技術によりカバーやケーブルの切断を自動で行う装置開発も進めています。このLIB用のレーザー剥離技術は18日よりドイツのシュトゥットガルトで開催されるBattery Show Europe 2024で初めて発表される予定です。開発にはフラウンホーファーIPAも参画しています。
▶ https://www.trumpf.com/en_US/newsroom/global-press-releases/press-release-detail-page/release/e-mobility-trumpf-enables-the-recycling-of-batteries-on-an-industrial-scale-8504/
EVの普及鈍化は更に現実味を増しています。バッテリー材料大手のユミコア(Umicore)は顧客の需要予測が急減し、2024年の生産量は前年比で微減する可能性を発表しました。この発表に投資家は反応しましたが、欧米メディアは殆ど黙殺しました。米国では、2023年6月、中古EVの平均価格は中古ガソリン車価格を25%以上上回っていました。しかし僅か1年後の今年5月には、8%も下回りました。「中古EV価格が下がればEVの普及が進む」というEV推進派の目論見は外れ、旧モデルの中古車販売不振による価格の下落が続いています。フォード社はフォード車の販売ディーラーに課していた充電設備の導入義務を撤回しています。ベンツも2030年からのEVオンリー戦略を撤回しました。逆に国際エネルギー機関のEV市場見通しは相変わらず強気で、このニュースは世界を駆け巡りました。マッキンゼーが最近実施した世界規模の調査ではEV所有者の29%は購入したEVをガソリン車、またはディーゼル車に買い替える予定だと回答しており、米国のEV所有者の場合、その割合は38%になりました。マッキンゼーは2030年のEV成長予測を15~20%引き下げています。EUでは内燃機関車を2035年から全面的に禁止する計画を見直すか、2026年協議が行われる予定です。今回のEU議会選挙を経て、この全面禁止措置が緩和される可能性が否定できなくなっています。世界最大のEV市場である中国でも市場は既に飽和状態に達する可能性が指摘され、EV生産能力は過剰です。これらが事実として積み重なっています。欧米政治家がこぞって推進したグリーン水素、洋上風力発電、新しい核融合技術、EVは、大規模な市場性が無いまま殆どは資金不足と計画の遅れに直面しています。
▶ https://oilprice.com/Energy/Energy-General/From-Fantasy-to-Fact-The-EV-Slowdown-Gets-Real.html
中国の国家統計局(NBS)は、5月の統計データを発表しました。工業生産は前年比5.6%増(4月は6.7%増)、小売売上高3.7%増(4月は2.3%増)となっています。その他のデータも含め、輸出と製造業の活動は堅調、消費は比較的安定、不動産活動は低迷、となっています。政府が主導する製造業投資は、技術革新とイノベーションによる「質の高い成長」を重視しており、9.6%成長となりました。現在、輸出が中国の経済成長を牽引していますが、国際的に貿易摩擦を生み出す要因となっています。このデータ発表後に中国のCSI300株式指数は0.2%下落しました。不動産投資は1~5月に前年同期比10.1%減少し、1~4月の9.8%減少から更に悪化しました。新築住宅価格は5月に4月比で0.7%下落しました。11ヵ月連続の下落となり、更に2014年10月以来の大幅な下落となっています。国家統計局は記者会見で、不動産市場は調整中で政策の効果が表れるまでには時間がかかる、との見解を示しました。5月の失業率は4月と同じ5.0%でした。中国の鉄鋼業は困難な状況が続いています。
▶ https://www.stats.gov.cn/english/PressRelease/202406/t20240617_1954715.html
欧州の環境大臣は6月17日に環境理事会会合を開催しました。前欧州議会で未解決のグリーンディールの法案について協議しています。特にリサイクル業界で注目されるのは「改正廃棄物枠組み指令」案です。新たに食品廃棄物の削減に向けて、拘束力のある高い目標が提案されています。食品廃棄物は2030年迄に加工・製造業で10%、 小売業、レストラン、食品サービス業、家庭では、一人当たり30%を削減する義務があります。この改正案では食品メーカーに対して、初めて廃棄物の拡大生産者責任(EPR)が導入されます。EPRは同じく繊維廃棄物にも適用されます。EU で繊維製品を販売する生産者には廃棄物の収集、選別、リサイクルにかかる費用を負担することが義務付けられます。現在の見通しでは、法案通りに承認され、次の立法過程に進む予定です。
▶ https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2024/06/17/waste-framework-directive-council-set-to-start-talks-on-its-revision/
欧州理事会は物議を醸してきた「EU自然再生法」を正式に採択しました。この法律では2030年迄にEUの陸地と海域の少なくとも20%を再生し、2050年迄に再生が必要な全ての生態系を再生する為の措置を講じる必要があります。新たに「花粉媒介者の保護」と「生態系への対策」が盛り込まれています。農薬の使用制限や農地の厳格な管理安堵が将来的に含まれる事から、農業従事者からの大反対により、EU選挙の大きな争点の1つとなっていました。ベルギーは投票を棄権し、フィンランド、ハンガリー、イタリア、オランダ、ポーランド、スウェーデンは反対票を投じました。最終的にオーストリアの環境大臣が予想に反して賛成票を投じ、採択となりました。オーストリアのカール・ネハンマー首相は、環境大臣が政府の方針に反して「EU自然再生法」に賛成票を投じたことは「違法」だと述べています。現在、輸入品農産品にはEUと同様の厳格な条件が無い為、将来EU製品が競争力を失う可能性があり、農業従事者は反対してきました。その為、欧州政府は、将来、デューディリジェンスを主体にした農産物の保護貿易に進む可能性があります。
▶ https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2024/06/17/nature-restoration-law-council-gives-final-green-light/
ロシアのプーチン大統領がハノイを訪問する予定です。特に越-露間での商品やサービスのドル決済が欧米の制裁により困難となっている事から、双方の銀行システムを通じてルーブルとドンの通貨取引に合意する可能性が高いと見られています。ベトナム政府は先週末スイスで行われた「ウクライナ和平サミット」に出席しておらず、ロシアでのBRICS会議には外務次官を派遣しています。ベトナムのこの対応に米国政府は反発しています。ベトナムにとってロシアは貿易相手国の1つとして欠かせない存在ですが、越-露間の取引が続けば、ベトナムの銀行でのドル決済に影響が出る可能性があります。昨年3月にハーグの国際刑事裁判所(ICC)は、ウクライナでの戦争犯罪の疑いでロシア大統領の逮捕状を発行しており、米国はベトナムへのロシア大統領の渡航を非難しています。しかし、ベトナム、ロシア、米国はICCの加盟国ではありません。
▶ https://www.reuters.com/world/asia-pacific/us-rebukes-vietnam-ahead-expected-visit-by-russias-putin-2024-06-17/
先月末から今月初頭に掛けて、米国の銅スクラップ最大の輸入国である中国は米国での銅スクラップ価格の上昇により、米国産の輸入を一時的に停止しました。世界的な銅精鉱の供給不足により、中国では銅スクラップの輸入が増えています。貿易データによると、中国の銅廃棄物とスクラップの輸入量は1-4月で前年同期比25%増加の78万3004トンとなっています。特にファースト・クォンタムのパナマのコブレ鉱山の操業権喪失をキッカケに中国での銅精鉱不足は顕著になり、銅廃棄物輸入に拍車が掛かってきました。しかし先月末には米国内での価格上昇により、中国の買い手は米国産の銅スクラップの出荷を一時的に延期しました。価格の下げと共に解消に向かうと見られていましたが、動きは遅いようです。日本産の銅スクラップ(廃棄物)の中国の輸入量に既に影響が出ているかと思いますが、今後も米国での価格次第で継続する可能性があります。中国では精鉱の供給不足により、銅精錬所はより多くのスクラップを処理している状況が続いているようです。
▶ https://www.fastcompany.com/91141927/record-u-s-copper-prices-may-pause-china-s-imports
米国の上院議会は18日、先進的な原子炉の技術開発を加速させる法案(ADVANCE法)を圧倒的な多数(88対2)で可決しました。これは世界の脱炭素政策にとって必ず背景を理解しておくべき内容です。米国のこの法案は具体的には高分析低濃縮ウラン(HALEU)の生産を米国で行い、先進的な原子炉技術の規制を緩和するものです。また次世代原子炉の導入に対する資金提供を行い、原子力施設の許可取得を迅速化するものです。既に1月には英国でも同じHALEUの生産の為に3億ポンドの資金提供が決まっています。元々、HALEUの唯一の商業規模での供給元であったロシアが戦争による分断で利用できなくなった事から、英米で相次いで自国生産への方針転換が行われています。HALEUはウランU-235の濃度が高い為、原子炉を小型化でき、原子炉の燃料補給がそれほど必要ありません。小型モジュール原子炉(SMR)とマイクロ原子炉の設計にはHALEUが必要不可欠です。又、HALEUは生成される廃棄物の量も削減できます。ドイツは過去15年間、ロシアのガス利権を手中に収める為に「脱原子力キャンペーン」を行い、現在その代償を払っています。米国は原子力のコスト高や複雑な許可制度から停滞しました。その為、先進的な原子力技術への資金調達が困難となり、過去20年間停滞してきました。日本は福島の事故の影響で脱原発キャンペーンが行われ停止しました。その間、中国ではロシアの濃縮ウランを利用した原子力への投資が急速に加速して、2020年から2035年の間に150基の新しい原子炉が建設される予定です。現在27基が建設中で原子炉1基当たりの平均建設期間は約7年と、世界の中で突出して速い速度で原子力エネルギーの利用が拡大し、原子力大国になりつつあります。2000年代以降、世界経済が急速に拡大し石油需要が増加しました。かつて15~50ドル/バレル程度であった原油価格が一時は150ドルにまで跳ね上がり、オイルダラー(オイルマネー)が中東やロシアに流れ、サッカーのプレミアリーグがオイルマネーによって席巻される等、世界のパワーバランスが大きく変わってきました。脱炭素キャンペーンでオイルマネーの力学を抑える政策は、今、英米で次世代原子力に大きく傾倒し始めています。米国の上院でこの法案が反対票が僅か2票で可決された背景には、単なる脱炭素のキャンペーンではない、エネルギー安全保障とオイルマネーの抑圧への力学がある事は知っておくべき背景かと思います。
▶ https://www.epw.senate.gov/public/index.cfm/press-releases-republican?ID=2348A9E4-7B90-40D2-8F32-39D402B2405C
▶ https://www.gov.uk/government/news/uk-invests-in-high-tech-nuclear-fuel-to-push-putin-out-of-global-energy-market
インドの鉄鋼省は昨年11月、鉄鋼製品に「Made in India」の表示を付けるよう促し、現在、製品の80%に同ラベルが取り付けられている事を発表しました。既に大手のRINL、JSPL、TATA Steelは自社製品に100%Made in Indiaの表示を付けており、残りの主要メーカーも表示化を完了する見込みです。インド政府は世界で流通する鉄鋼製品の内、インド品の識別を容易にする事でブランド化を狙っています。また国内での消費ではMade in Indiaを優先するよう促している為、識別が重要となっています。インドの鉄鋼省はこの取組により、第一段階として1億2500万トンの生産量の内、8000万トンの鉄鋼が「ブランド化」されると述べています。つい最近、インドの大手格付け会社インド・レーティングスは、インドの鉄鋼需要が今年9~12%成長すると予測しました。主にインド国内でのインフラプロジェクトに牽引される需要増で、政府による積極的な政策支援が背景にあります。6月に入り世界的に鉄鋼需要と生産が伸び悩み鉄スクラップ価格も下落する中、今年、Made in Indiaの鉄鋼は確実に成長している数少ないブランドの1つです。
▶ https://indianexpress.com/article/business/economy/80-of-indian-steel-producers-have-labelled-made-in-india-on-products-9398416/
▶ https://www.constructionworld.in/steel-news/india-ratings-forecasts-9-12-growth-in-steel-demand/57246
英国のタイヤの回収・リサイクル団体であるタイヤ回収協会(TRA)は、2週間後に迫る英国総選挙に先駆け、主要政党に対するマニフェストを発表しました。「環境を保護し英国の能力を守る為、規則の改革を求める選挙マニフェスト」と題された文章は、どの政党が選挙で勝利しても、新政府が実行すべき明確な廃棄物政策を提示しています。英国は世界で最も廃棄タイヤを「中古タイヤ」としてグレーゾーンで輸出している国の1つです。昨年後半には、半年間で80万本以上の廃タイヤをインドに輸出しました。TRAは何度か声明を発行し、政府に対し規制を求めてきましたが変わりませんでした。今回の選挙で勝利すると見られている労働党は環境保護政策が現保守党よりも厳しく、廃タイヤ(中古タイヤ)の輸出規制措置が行われた場合には国際流通する廃棄タイヤの数が減る可能性があります。
▶ https://tyrerecovery.org.uk/2024/06/17/reforming-responsible-waste-management-the-tyre-recovery-association-manifesto-for-2024/
既に大幅に遅れている欧州のEVバッテリー生産プロジェクトは、更に遅れ、縮小される見込みです。EUの5月のEV販売台数は前年同月比で12%減少、特に補助金が無くなったドイツでは30%減少しました。EUの新規電池プロジェクトは補助金頼みですが、EUの補助金制度は米国のIRAと異なり申請から許可を得るまでに時間が掛かるだけでなく、困難です。EUの自動車メーカーはEV部門の利益率が悪い為、計画中の電池工場をさらに延期・削減する見込みです。VWは215億ドル規模の「ギガバッテリー工場」のフル稼働を延期する可能性が高いと見られています。またBMWは、スウェーデンのノースボルト社との20億ドルのバッテリーセルの契約をキャンセルしました。ノースボルトは量産に苦労しており、ライン不良が多く、納期に問題を抱えていると伝えられています。サムソンSDIが穴を埋める模様です。ステランティスとメルセデスが出資するオートモーティブ・セルズ・カンパニーは、EVの需要が鈍化していることから3工場の内、2つを稼働停止としています。既にEU内に工場を持つ中国・韓国の電池メーカーとの競争にも勝てず、欧州メーカーの電池プロジェクトは困難な状況が続いています。恐らくですが、見掛け上は「延期」としていますが、いくらお金をつぎ込んでも、現在の状況が好転する事は無さそうです。
▶ https://www.reuters.com/business/autos-transportation/bmw-cancels-2-bln-contract-with-northvolt-says-handelsblatt-2024-06-20/
中国のEV関連企業は欧州への進出計画の延期を検討していると伝わっています。中国のEV企業/関連企業30社を対象とした調査では回答者の82%がEUによる補助金調査と追加関税により、欧州への投資に対する信頼が低下したと回答しています。調査対象企業の約83%はEUによる中国企業への補助金調査により、販売会社やリース会社などの欧州のパートナーとの間で懸念が生じ、計画の遅れや縮小があったと報告しています。回答者の72%はEUの調査により、欧州の現地従業員の士気が低下し、同地域で優秀な人材を確保することが難しくなったと指摘しています。この会議では中国の自動車メーカーが欧州車の輸入に対する報復関税を要求しました。しかし多くの中国EV関連企業は今後5年以内には欧州への進出を望んでいます。
▶ https://www.asiafinancial.com/china-ev-firms-scaling-back-european-plans-over-subsidy-probe
Nesteは、Borealis、Covestroと使用済みタイヤを化学(熱分解)リサイクルし、高純度ポリカーボネート材を生成するプロジェクトの提携を発表しました。生成するポリカーボネート材は、車のヘッドランプやラジエーターグリル等、自動車部品の材料として利用します。ネステは廃タイヤから熱分解油を原料にしたボレアリスを製造します。ボレアリスはフェノールとアセトンに変換され、Borealis社がポリカーボネートを製造します。再生ポリカーボネート材のリサイクル成分は、マスバランス方式によって計算される事になります。ネステは今年4月に廃タイヤから抽出した熱分解油を使った初の処理実験が成功したと発表しました。同社はプラスチック廃棄物以外の化学リサイクルの可能性を評価し、高品質製品に加工できる廃棄物の循環性を拡大する計画です。
▶ https://www.neste.com/news/from-old-tires-to-new-car-parts-neste-borealis-and-covestro-aim-at-closing-the-loop-for-automotive-industry
7月4日の英国の総選挙で現在有利な労働党が勝利した場合、英国の炭素排出権市場(UK ETS)と2027年から英国で導入予定の炭素国境調整メカニズム(CBAM)の両方を、現在のEUのものと一致させる計画です。これは英国の炭素市場の排出権取引価格(炭素価格)がEUの炭素価格よりも低い為、将来的に英国の輸出業者がEUの国境で炭素税を支払う可能性がある為です。英国とEUはそれぞれのCBAMを通じて、域外からの鉄鋼やセメント等の輸入品に対し、生産時の炭素排出量に応じて課税します。鉄スクラップ輸出大国である英国とEUの両方が同じレベルでETSとCBAMを行った場合、国際的なスクラップ流通に影響が出る事になります。域外に原料を輸出して製品を輸入する炭素コストが合わない為です。
▶ https://www.ft.com/content/49c25a8e-cc95-4656-a03e-0f47afced24e
インドは昨年度、鉄鋼の純輸入国になりました。政府発表ではインドの完成鋼輸入量は昨年度に前年比38%増の830万トンとなりました。主な輸入先は中国、韓国、日本、ベトナムです。特に中国の輸出量の伸びが多く270万トン、過去に輸入の多かった韓国が2位で260万トン、3位が日本で130万トン、4位がベトナムで、前年比で1.3倍となっています。この傾向は今も続いており、新年度の2ヶ月(4月と5月)で、既に前年同期比で20%増となっています。世界の鉄鋼業界は、中国の過剰生産と輸出、インドの成長、欧州の減少が、暫く続きそうです。
▶ https://www.constructionweekonline.in/business/india-records-a-steel-trade-deficit-of-1-1-mt-becoming-a-net-importer-in-fiscal-2024
▶ https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0921344924002489
プラスチックに関する米国の団体「米国プラスチック協定」はプラスチックの利用と廃棄物の削減に関する「ロードマップ2.0」を発表しました。これは企業が包装に使用するプラスチックの設計、使用、再利用の方法を変える最新の戦略計画となります。米国でのプラスチックとプラスチック廃棄物削減の取組は徐々に広まっています。しかし埋立コストの安い米国ではロードマップを作成し進捗管理をする取組は珍しい事です。今回のロードマップ2.0ではプラスチック包装の再利用、リサイクル、堆肥化の為の実践的な方法を明記しています。
▶ https://usplasticspact.org/
スペインで官民がコンソーシアムを組み、下水処理場で発生する汚泥の嫌気性共消化処理を通じて生分解性プラスチック廃棄物を回収し、ガス化処理を行うプロジェクトがスタートしています。資金はEUの2023年戦略的協力プロジェクトの予算から提供され、バレンシア競争力・イノベーション研究所(IVACE+i)を通じて提供されています。まず実験室規模での試験後にパイロット工場規模にまで拡大する計画です。都市の下水処理場から汚泥を嫌気性条件下で生物学的処理を行い、そこに含まれる様々なマイクロプラスチックの分解を研究する事がテーマとなります。海洋に流出するマイクロプラスチックは人類全体の問題として徐々に認識されつつあり、下水から流出するプラスチック汚染を削減する新たな取組となっています。
▶ https://www.aimplas.net/blog/project-converts-biodegradable-plastic-waste-into-green-energy/
EU議会選挙が終了したばかりですが、現欧州委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエン氏の再任阻止を求め、欧州人民党(EPP)の一部は来週ブリュッセルの裁判所に出廷(提訴)する予定と伝えられています。訴訟を起こす原告は、欧州人民党に対して、同氏を欧州委員会委員長の候補から外すよう求めます。欧州人民党(EPP)は今回の選挙後も欧州議会で最大の会派である為、ライエン氏の2期目にやや暗雲が垂れこんでいます。緊急手続きとして、6月21日にブリュッセルのフランス語圏第一審裁判所で公聴会を開く予定と伝えられています。前回2019年の選挙で巻き起ったグリーンムーブメントにより選出されたライエン委員長と、欧州グリーンディール担当執行副委員長のフランス・ティメルマンス(2023年8月辞任)によって、過去5年間行われてきたEUグリーンディールによる様々な政策や法律は、ライエン氏の再任が阻止された場合、大きな痛手となる可能性があります。
▶ https://www.euractiv.com/section/justice-home-affairs/news/breaking-epp-before-brussels-court-next-week-about-von-der-leyens-candidacy/
アメリカ石油協会(API)と複数の団体は、米国での厳格な排気ガス規制を阻止する訴訟を起こしました。現米政権による厳しい排ガス規制は「事実上、EVの製造と購入を義務化するものである」と主張しています。米国の環境保護庁(EPA)は今年3月に新しい排気ガス排出基準を発表しました。発表時に同庁は新基準は最も厳しいものであり、経費が節約され、雇用が創出され、数十億トンの二酸化炭素排出量が削減される、と述べました。APIとこの訴訟に参加した複数の団体は「僅か8年で殆どの新型ガソリン車と従来のハイブリッド車が米国市場から事実上排除される。EPAの規制は、消費者の需要をは遥かに上回っている」と異議を唱えています。全米自動車販売協会(NADA)も「この規則は定められた時間枠内で達成することは不可能であり、消費者が予算と交通ニーズに合った新しい車両を選択する能力が著しく制限される」と新しい排気ガス規制を批判しています。
▶ https://www.api.org/news-policy-and-issues/news/2024/06/12/api-coalition-partners-file-lawsuit-to-protect-american-consumers
ドイツの工業用レーザー機器大手のトルンプ(Trumpf)社は、レーザー技術を用いた世界初の工業用バッテリーリサイクル技術を開発したと発表しました。レーザーを使い銅やアルミ箔に極薄に塗布された活物質層を剥離します。レーザー剥離技術は過去よりありますが、バッテリーの極材に実用レベルで利用するのは初めての試みとなります。また手解体工程を最小限にする為にレーザー技術によりカバーやケーブルの切断を自動で行う装置開発も進めています。このLIB用のレーザー剥離技術は18日よりドイツのシュトゥットガルトで開催されるBattery Show Europe 2024で初めて発表される予定です。開発にはフラウンホーファーIPAも参画しています。
▶ https://www.trumpf.com/en_US/newsroom/global-press-releases/press-release-detail-page/release/e-mobility-trumpf-enables-the-recycling-of-batteries-on-an-industrial-scale-8504/
EVの普及鈍化は更に現実味を増しています。バッテリー材料大手のユミコア(Umicore)は顧客の需要予測が急減し、2024年の生産量は前年比で微減する可能性を発表しました。この発表に投資家は反応しましたが、欧米メディアは殆ど黙殺しました。米国では、2023年6月、中古EVの平均価格は中古ガソリン車価格を25%以上上回っていました。しかし僅か1年後の今年5月には、8%も下回りました。「中古EV価格が下がればEVの普及が進む」というEV推進派の目論見は外れ、旧モデルの中古車販売不振による価格の下落が続いています。フォード社はフォード車の販売ディーラーに課していた充電設備の導入義務を撤回しています。ベンツも2030年からのEVオンリー戦略を撤回しました。逆に国際エネルギー機関のEV市場見通しは相変わらず強気で、このニュースは世界を駆け巡りました。マッキンゼーが最近実施した世界規模の調査ではEV所有者の29%は購入したEVをガソリン車、またはディーゼル車に買い替える予定だと回答しており、米国のEV所有者の場合、その割合は38%になりました。マッキンゼーは2030年のEV成長予測を15~20%引き下げています。EUでは内燃機関車を2035年から全面的に禁止する計画を見直すか、2026年協議が行われる予定です。今回のEU議会選挙を経て、この全面禁止措置が緩和される可能性が否定できなくなっています。世界最大のEV市場である中国でも市場は既に飽和状態に達する可能性が指摘され、EV生産能力は過剰です。これらが事実として積み重なっています。欧米政治家がこぞって推進したグリーン水素、洋上風力発電、新しい核融合技術、EVは、大規模な市場性が無いまま殆どは資金不足と計画の遅れに直面しています。
▶ https://oilprice.com/Energy/Energy-General/From-Fantasy-to-Fact-The-EV-Slowdown-Gets-Real.html
中国の国家統計局(NBS)は、5月の統計データを発表しました。工業生産は前年比5.6%増(4月は6.7%増)、小売売上高3.7%増(4月は2.3%増)となっています。その他のデータも含め、輸出と製造業の活動は堅調、消費は比較的安定、不動産活動は低迷、となっています。政府が主導する製造業投資は、技術革新とイノベーションによる「質の高い成長」を重視しており、9.6%成長となりました。現在、輸出が中国の経済成長を牽引していますが、国際的に貿易摩擦を生み出す要因となっています。このデータ発表後に中国のCSI300株式指数は0.2%下落しました。不動産投資は1~5月に前年同期比10.1%減少し、1~4月の9.8%減少から更に悪化しました。新築住宅価格は5月に4月比で0.7%下落しました。11ヵ月連続の下落となり、更に2014年10月以来の大幅な下落となっています。国家統計局は記者会見で、不動産市場は調整中で政策の効果が表れるまでには時間がかかる、との見解を示しました。5月の失業率は4月と同じ5.0%でした。中国の鉄鋼業は困難な状況が続いています。
▶ https://www.stats.gov.cn/english/PressRelease/202406/t20240617_1954715.html
欧州の環境大臣は6月17日に環境理事会会合を開催しました。前欧州議会で未解決のグリーンディールの法案について協議しています。特にリサイクル業界で注目されるのは「改正廃棄物枠組み指令」案です。新たに食品廃棄物の削減に向けて、拘束力のある高い目標が提案されています。食品廃棄物は2030年迄に加工・製造業で10%、 小売業、レストラン、食品サービス業、家庭では、一人当たり30%を削減する義務があります。この改正案では食品メーカーに対して、初めて廃棄物の拡大生産者責任(EPR)が導入されます。EPRは同じく繊維廃棄物にも適用されます。EU で繊維製品を販売する生産者には廃棄物の収集、選別、リサイクルにかかる費用を負担することが義務付けられます。現在の見通しでは、法案通りに承認され、次の立法過程に進む予定です。
▶ https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2024/06/17/waste-framework-directive-council-set-to-start-talks-on-its-revision/
欧州理事会は物議を醸してきた「EU自然再生法」を正式に採択しました。この法律では2030年迄にEUの陸地と海域の少なくとも20%を再生し、2050年迄に再生が必要な全ての生態系を再生する為の措置を講じる必要があります。新たに「花粉媒介者の保護」と「生態系への対策」が盛り込まれています。農薬の使用制限や農地の厳格な管理安堵が将来的に含まれる事から、農業従事者からの大反対により、EU選挙の大きな争点の1つとなっていました。ベルギーは投票を棄権し、フィンランド、ハンガリー、イタリア、オランダ、ポーランド、スウェーデンは反対票を投じました。最終的にオーストリアの環境大臣が予想に反して賛成票を投じ、採択となりました。オーストリアのカール・ネハンマー首相は、環境大臣が政府の方針に反して「EU自然再生法」に賛成票を投じたことは「違法」だと述べています。現在、輸入品農産品にはEUと同様の厳格な条件が無い為、将来EU製品が競争力を失う可能性があり、農業従事者は反対してきました。その為、欧州政府は、将来、デューディリジェンスを主体にした農産物の保護貿易に進む可能性があります。
▶ https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2024/06/17/nature-restoration-law-council-gives-final-green-light/
ロシアのプーチン大統領がハノイを訪問する予定です。特に越-露間での商品やサービスのドル決済が欧米の制裁により困難となっている事から、双方の銀行システムを通じてルーブルとドンの通貨取引に合意する可能性が高いと見られています。ベトナム政府は先週末スイスで行われた「ウクライナ和平サミット」に出席しておらず、ロシアでのBRICS会議には外務次官を派遣しています。ベトナムのこの対応に米国政府は反発しています。ベトナムにとってロシアは貿易相手国の1つとして欠かせない存在ですが、越-露間の取引が続けば、ベトナムの銀行でのドル決済に影響が出る可能性があります。昨年3月にハーグの国際刑事裁判所(ICC)は、ウクライナでの戦争犯罪の疑いでロシア大統領の逮捕状を発行しており、米国はベトナムへのロシア大統領の渡航を非難しています。しかし、ベトナム、ロシア、米国はICCの加盟国ではありません。
▶ https://www.reuters.com/world/asia-pacific/us-rebukes-vietnam-ahead-expected-visit-by-russias-putin-2024-06-17/
先月末から今月初頭に掛けて、米国の銅スクラップ最大の輸入国である中国は米国での銅スクラップ価格の上昇により、米国産の輸入を一時的に停止しました。世界的な銅精鉱の供給不足により、中国では銅スクラップの輸入が増えています。貿易データによると、中国の銅廃棄物とスクラップの輸入量は1-4月で前年同期比25%増加の78万3004トンとなっています。特にファースト・クォンタムのパナマのコブレ鉱山の操業権喪失をキッカケに中国での銅精鉱不足は顕著になり、銅廃棄物輸入に拍車が掛かってきました。しかし先月末には米国内での価格上昇により、中国の買い手は米国産の銅スクラップの出荷を一時的に延期しました。価格の下げと共に解消に向かうと見られていましたが、動きは遅いようです。日本産の銅スクラップ(廃棄物)の中国の輸入量に既に影響が出ているかと思いますが、今後も米国での価格次第で継続する可能性があります。中国では精鉱の供給不足により、銅精錬所はより多くのスクラップを処理している状況が続いているようです。
▶ https://www.fastcompany.com/91141927/record-u-s-copper-prices-may-pause-china-s-imports
米国の上院議会は18日、先進的な原子炉の技術開発を加速させる法案(ADVANCE法)を圧倒的な多数(88対2)で可決しました。これは世界の脱炭素政策にとって必ず背景を理解しておくべき内容です。米国のこの法案は具体的には高分析低濃縮ウラン(HALEU)の生産を米国で行い、先進的な原子炉技術の規制を緩和するものです。また次世代原子炉の導入に対する資金提供を行い、原子力施設の許可取得を迅速化するものです。既に1月には英国でも同じHALEUの生産の為に3億ポンドの資金提供が決まっています。元々、HALEUの唯一の商業規模での供給元であったロシアが戦争による分断で利用できなくなった事から、英米で相次いで自国生産への方針転換が行われています。HALEUはウランU-235の濃度が高い為、原子炉を小型化でき、原子炉の燃料補給がそれほど必要ありません。小型モジュール原子炉(SMR)とマイクロ原子炉の設計にはHALEUが必要不可欠です。又、HALEUは生成される廃棄物の量も削減できます。ドイツは過去15年間、ロシアのガス利権を手中に収める為に「脱原子力キャンペーン」を行い、現在その代償を払っています。米国は原子力のコスト高や複雑な許可制度から停滞しました。その為、先進的な原子力技術への資金調達が困難となり、過去20年間停滞してきました。日本は福島の事故の影響で脱原発キャンペーンが行われ停止しました。その間、中国ではロシアの濃縮ウランを利用した原子力への投資が急速に加速して、2020年から2035年の間に150基の新しい原子炉が建設される予定です。現在27基が建設中で原子炉1基当たりの平均建設期間は約7年と、世界の中で突出して速い速度で原子力エネルギーの利用が拡大し、原子力大国になりつつあります。2000年代以降、世界経済が急速に拡大し石油需要が増加しました。かつて15~50ドル/バレル程度であった原油価格が一時は150ドルにまで跳ね上がり、オイルダラー(オイルマネー)が中東やロシアに流れ、サッカーのプレミアリーグがオイルマネーによって席巻される等、世界のパワーバランスが大きく変わってきました。脱炭素キャンペーンでオイルマネーの力学を抑える政策は、今、英米で次世代原子力に大きく傾倒し始めています。米国の上院でこの法案が反対票が僅か2票で可決された背景には、単なる脱炭素のキャンペーンではない、エネルギー安全保障とオイルマネーの抑圧への力学がある事は知っておくべき背景かと思います。
▶ https://www.epw.senate.gov/public/index.cfm/press-releases-republican?ID=2348A9E4-7B90-40D2-8F32-39D402B2405C
▶ https://www.gov.uk/government/news/uk-invests-in-high-tech-nuclear-fuel-to-push-putin-out-of-global-energy-market
インドの鉄鋼省は昨年11月、鉄鋼製品に「Made in India」の表示を付けるよう促し、現在、製品の80%に同ラベルが取り付けられている事を発表しました。既に大手のRINL、JSPL、TATA Steelは自社製品に100%Made in Indiaの表示を付けており、残りの主要メーカーも表示化を完了する見込みです。インド政府は世界で流通する鉄鋼製品の内、インド品の識別を容易にする事でブランド化を狙っています。また国内での消費ではMade in Indiaを優先するよう促している為、識別が重要となっています。インドの鉄鋼省はこの取組により、第一段階として1億2500万トンの生産量の内、8000万トンの鉄鋼が「ブランド化」されると述べています。つい最近、インドの大手格付け会社インド・レーティングスは、インドの鉄鋼需要が今年9~12%成長すると予測しました。主にインド国内でのインフラプロジェクトに牽引される需要増で、政府による積極的な政策支援が背景にあります。6月に入り世界的に鉄鋼需要と生産が伸び悩み鉄スクラップ価格も下落する中、今年、Made in Indiaの鉄鋼は確実に成長している数少ないブランドの1つです。
▶ https://indianexpress.com/article/business/economy/80-of-indian-steel-producers-have-labelled-made-in-india-on-products-9398416/
▶ https://www.constructionworld.in/steel-news/india-ratings-forecasts-9-12-growth-in-steel-demand/57246
英国のタイヤの回収・リサイクル団体であるタイヤ回収協会(TRA)は、2週間後に迫る英国総選挙に先駆け、主要政党に対するマニフェストを発表しました。「環境を保護し英国の能力を守る為、規則の改革を求める選挙マニフェスト」と題された文章は、どの政党が選挙で勝利しても、新政府が実行すべき明確な廃棄物政策を提示しています。英国は世界で最も廃棄タイヤを「中古タイヤ」としてグレーゾーンで輸出している国の1つです。昨年後半には、半年間で80万本以上の廃タイヤをインドに輸出しました。TRAは何度か声明を発行し、政府に対し規制を求めてきましたが変わりませんでした。今回の選挙で勝利すると見られている労働党は環境保護政策が現保守党よりも厳しく、廃タイヤ(中古タイヤ)の輸出規制措置が行われた場合には国際流通する廃棄タイヤの数が減る可能性があります。
▶ https://tyrerecovery.org.uk/2024/06/17/reforming-responsible-waste-management-the-tyre-recovery-association-manifesto-for-2024/
既に大幅に遅れている欧州のEVバッテリー生産プロジェクトは、更に遅れ、縮小される見込みです。EUの5月のEV販売台数は前年同月比で12%減少、特に補助金が無くなったドイツでは30%減少しました。EUの新規電池プロジェクトは補助金頼みですが、EUの補助金制度は米国のIRAと異なり申請から許可を得るまでに時間が掛かるだけでなく、困難です。EUの自動車メーカーはEV部門の利益率が悪い為、計画中の電池工場をさらに延期・削減する見込みです。VWは215億ドル規模の「ギガバッテリー工場」のフル稼働を延期する可能性が高いと見られています。またBMWは、スウェーデンのノースボルト社との20億ドルのバッテリーセルの契約をキャンセルしました。ノースボルトは量産に苦労しており、ライン不良が多く、納期に問題を抱えていると伝えられています。サムソンSDIが穴を埋める模様です。ステランティスとメルセデスが出資するオートモーティブ・セルズ・カンパニーは、EVの需要が鈍化していることから3工場の内、2つを稼働停止としています。既にEU内に工場を持つ中国・韓国の電池メーカーとの競争にも勝てず、欧州メーカーの電池プロジェクトは困難な状況が続いています。恐らくですが、見掛け上は「延期」としていますが、いくらお金をつぎ込んでも、現在の状況が好転する事は無さそうです。
▶ https://www.reuters.com/business/autos-transportation/bmw-cancels-2-bln-contract-with-northvolt-says-handelsblatt-2024-06-20/
中国のEV関連企業は欧州への進出計画の延期を検討していると伝わっています。中国のEV企業/関連企業30社を対象とした調査では回答者の82%がEUによる補助金調査と追加関税により、欧州への投資に対する信頼が低下したと回答しています。調査対象企業の約83%はEUによる中国企業への補助金調査により、販売会社やリース会社などの欧州のパートナーとの間で懸念が生じ、計画の遅れや縮小があったと報告しています。回答者の72%はEUの調査により、欧州の現地従業員の士気が低下し、同地域で優秀な人材を確保することが難しくなったと指摘しています。この会議では中国の自動車メーカーが欧州車の輸入に対する報復関税を要求しました。しかし多くの中国EV関連企業は今後5年以内には欧州への進出を望んでいます。
▶ https://www.asiafinancial.com/china-ev-firms-scaling-back-european-plans-over-subsidy-probe
Nesteは、Borealis、Covestroと使用済みタイヤを化学(熱分解)リサイクルし、高純度ポリカーボネート材を生成するプロジェクトの提携を発表しました。生成するポリカーボネート材は、車のヘッドランプやラジエーターグリル等、自動車部品の材料として利用します。ネステは廃タイヤから熱分解油を原料にしたボレアリスを製造します。ボレアリスはフェノールとアセトンに変換され、Borealis社がポリカーボネートを製造します。再生ポリカーボネート材のリサイクル成分は、マスバランス方式によって計算される事になります。ネステは今年4月に廃タイヤから抽出した熱分解油を使った初の処理実験が成功したと発表しました。同社はプラスチック廃棄物以外の化学リサイクルの可能性を評価し、高品質製品に加工できる廃棄物の循環性を拡大する計画です。
▶ https://www.neste.com/news/from-old-tires-to-new-car-parts-neste-borealis-and-covestro-aim-at-closing-the-loop-for-automotive-industry
7月4日の英国の総選挙で現在有利な労働党が勝利した場合、英国の炭素排出権市場(UK ETS)と2027年から英国で導入予定の炭素国境調整メカニズム(CBAM)の両方を、現在のEUのものと一致させる計画です。これは英国の炭素市場の排出権取引価格(炭素価格)がEUの炭素価格よりも低い為、将来的に英国の輸出業者がEUの国境で炭素税を支払う可能性がある為です。英国とEUはそれぞれのCBAMを通じて、域外からの鉄鋼やセメント等の輸入品に対し、生産時の炭素排出量に応じて課税します。鉄スクラップ輸出大国である英国とEUの両方が同じレベルでETSとCBAMを行った場合、国際的なスクラップ流通に影響が出る事になります。域外に原料を輸出して製品を輸入する炭素コストが合わない為です。
▶ https://www.ft.com/content/49c25a8e-cc95-4656-a03e-0f47afced24e
インドは昨年度、鉄鋼の純輸入国になりました。政府発表ではインドの完成鋼輸入量は昨年度に前年比38%増の830万トンとなりました。主な輸入先は中国、韓国、日本、ベトナムです。特に中国の輸出量の伸びが多く270万トン、過去に輸入の多かった韓国が2位で260万トン、3位が日本で130万トン、4位がベトナムで、前年比で1.3倍となっています。この傾向は今も続いており、新年度の2ヶ月(4月と5月)で、既に前年同期比で20%増となっています。世界の鉄鋼業界は、中国の過剰生産と輸出、インドの成長、欧州の減少が、暫く続きそうです。
▶ https://www.constructionweekonline.in/business/india-records-a-steel-trade-deficit-of-1-1-mt-becoming-a-net-importer-in-fiscal-2024