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世界の環境関連ニュース(2021年5月第4週)
Argusや他の一部メディアでも伝えられていますが、ドイツ議会が新しいバイオ燃料法を通過させています。
これは6月に一部見直しが予定されている欧州再生可能エネルギー法に影響を与えるもの(先取りしたもの)、としています。2023年からパーム油を原料としたディーゼル燃料(を混入する事)が禁止され、それまでも4.4%以下にするように義務化されました。パームディーゼルを禁止する国は、フランス、オランダ、オーストリアについて4ヵ国目です。高度に再生可能なバイオ燃料(アルコール及びディーゼル)の使用比率を現在の6%から2030年には25%にする、としています。既に世界各地でガソリンにアルコールを5%から10%混入した燃料は販売しています。ただ自動車メーカーも多く語りませんが、アルコールは極めて水と新和性が高い為、ガソリン内のアルコール比率が上がると燃料系統の腐食が起きる事があり、フィルター、ポンプを含めた燃料系統への影響があります。その為、特殊な(リサイクルには向かない)複合材料で作り、更に燃料を車に入れたまま長期間置くと燃料として性能がかなり落ちるので、燃費が悪くなり、総合的には環境に優しいのは?です。欧州の政治家は、全体的な環境というより人気のある政策に偏る傾向があります(これによってもたらされるグリーン投資家のロビー活動も強烈です)。
▶ https://www.argusmedia.com/en/news/2217327-germanys-parliament-passes-biofuels-law?backToResults=true
上記のバイオ燃料推進とは反対で、WWFが大豆流通の環境デューデリに関するスコアに取り組んだ結果、森林破壊や転換のない大豆への既存の取り組みは弱く、サプライチェーン全体でリスクのあるエコシステムも適用されておらず、問題の緊急性を反映していない、と結論づけて発表しています。現在、世界のバイオ燃料の60%はエタノールで、40%がバイオディーゼルです。エタノールの場合、原料が発酵すればアルコール(エタノール)になる為、原料と工程の自由度は高いですが、バイオディーゼルはエステル化しても組成影響があるので、原料により工程が決められます。世界的にはバイオディーゼル燃料の原料として一番多いのは大豆とパーム油で、それぞれ約30%です。アメリカではバイオディーゼルの半分は大豆から作りますが、膨大な量の農薬と化学肥料をまき散らして作るので土壌内の有機物の減少が指摘されています。環境政策と言いつつ、実際には「車の量」を増やす政策ですので、本当は経済政策+失業対策といえます。
▶ https://www.worldwildlife.org/press-releases/first-soy-traders-scorecard-shows-major-traders-are-not-taking-sufficient-action-on-their-environmental-and-social-commitments
リサイクル材を使ったHDPE(高密度ポリエチレン)牛乳ボトルのニュースです。
ベルギーのアントワープに本社がある石油化学では世界3位の大手「INEOS社」が、リサイクル材で作られたHDPEの牛乳用ボトルを開発し、フランスの乳製品大手「LACTEL社」とパートナーシップを結んだ事を発表しています。正式な工法は発表していませんが、ケミカルリサイクルにより再生(再ポリマー化)されたHDPEを利用している、という事です。先ずは14万本の牛乳ボトル(製品)の試験生産を開始する、としています。ケミカルリサイクルでは製品メーカーと石油化学会社がスキームを作る事が規定路線になっており、リサイクラーがスキームのどこで(どのファンクションで)生き残れるか、既にその段階に入り始めています。
▶ https://www.ineos.com/news/shared-news/ineos-and-lactel-partner-to-produce-the-worlds-first-hdpe-milk-bottles-from-advanced-recycling/
既に欧米の幾つかのメディアでは紹介されていますが、オーストラリアの「Minderoo財団」が同団体のレポートで使い捨てプラスチックによる世界のプラスチック汚染について公表しています。レポートの特徴は、それらの使い捨てプラスチックのポリマーを生産しているメーカー、その株主、更に投資している銀行の名前を実名で公表している事です。2019年の世界で発生した全ての使い捨てプラスチック廃棄物の半分以上、約20社はポリマー生産メーカーによるもの、としています。これらのメーカーに資金を提供している商業銀行(金融機関)の60%近くは、多国籍の銀行20行によるもの、としています。その額は2011年以降で合計300億ドルに達する、としています。
▶ https://www.minderoo.org/plastic-waste-makers-index/data/indices/producers/
▶ https://www.minderoo.org/plastic-waste-makers-index/data/indices/investors/
▶ https://www.minderoo.org/plastic-waste-makers-index/data/indices/banks/
既に仏「ヴェオリア社」が大手「スエズ」の廃棄物管理部門を買収する事が伝えられていますが、英国の廃棄物リサイクルの上場企業である「Biffa社」も、廃棄物の収集運搬と管理の大手の買収を発表しています。英国の廃棄物管理のBiffa社が、廃棄物収集及びリサイクル会社である同じ英国の「Viridor社」の廃棄物回収と一部のリサイクル事業を買収する事を発表しています。Viridor社はブランドをそのまま維持して事業を行います。この買収は上場企業による廃棄物収集量の増強を目論む事業戦略があります。Biffaはリサイクル、エネルギー回収、最終処分を行う上場企業です。リサイクルの新技術への投資が活発化している欧州では、買収や協業による規模拡大が進み始めています。
▶ https://www.biffa.co.uk/media-centre/news/acquisition-of-viridors-collections-business-and-certain-recycling-assets
Euractiveが欧州グリーンディールの担当責任者である欧州委員会の副委員長フランス・ティメルマンス氏へのインタビューを報じています。他国・他地域に将来影響を与える内容が含まれています。特に注目すべきは、7月に予定されている「EU排出量取引制度(EU EST)の改訂」、「欧州炭素国境調整メカニズム(CBAM)」、「森林バイオマス」の3点です。EU排出量取引制度(EU EST)に輸送と住宅部門が含まれる可能性が高い事、欧州炭素国境調整メカニズム(CBAM)が非脱炭素化国に導入される可能性が高い事、そして森林バイオマスの必要性を強調しつつ、今後は他の再生可能エネルギーと比べて森林バイオマス発電の成長が少ない分野になる、としている事です。
▶ https://www.euractiv.com/section/energy-environment/interview/timmermans-eu-countries-need-to-face-the-consequences-of-higher-climate-goals/
スウェーデンの「UPM Specialty Papers(UPM特殊紙)」が、プラスチックに代わってリサイクル可能な紙ベースの食品包装材料の拡充を発表しています。高度な耐油性、耐湿性、鉱油バリア特性に優れ、包装製品の安全を確保します。食品包装に使われるプラスチックは、包装していた食品の種類により残留物の洗浄や品質管理の面でコストが掛かり現実的ではありません。安価に機械的なリサイクルをする事が出来ない為、欧州では代替材料の開発が進み、相次いで発表されています。これはプラスチック包装税とEU指令による再生プラスチック利用の促進に起因しています。
▶ https://www.upmspecialtypapers.com/news-and-stories/2021/05/upm-specialty-papers-presents-upmasendopro–a-multifunctional-fibre-based-packaging-solution/
インド工科大学デリー校が、将来インド国内で発生するソーラーパネルと関連部品から予想される廃棄物量を予測しています。今後10年間で太陽光発電容量347.5GW分のシステムが設置され、2047年までに約29.5億トンの太陽光発電材料が電子廃棄物に含まれることになる、としています。その内、70%は回収可能としていますが、30%は廃棄される可能性があります。廃棄物の量計算は早期故障の推定値と予想される寿命を考慮しています。インドでは2019年の初めから既に寿命が尽きた太陽光パネルの廃棄物が発生しており、その量は指数関数的に増加しています。意外と知られていませんが、太陽光パネルはコストが合わない為、リサイクルに向かず埋め立てされる材料が多い物の一つです。太陽光発電に使われるパネルやシステムは、中国製の素材(材料と製品)への依存度が大変高い商品でもあります。
▶ https://www.pv-magazine.com/2021/05/25/india-could-have-2-95bn-tons-of-solar-waste-by-2047/
▶ https://www.pv-magazine-india.com/2021/05/25/iea-highlights-solars-dependence-on-chinese-copper-processing/
オーストラリアの「Graphene Manufacturing Group Ltd.社(GMG)」とクイーンランド大学がリチウムイオン電池の60分の1の時間で充電するアルミニウムイオン電池を開発したと発表しています。同社の発表によれば、新開発したバッテリーは他のアルミニウム電池の3倍のエネルギー密度があり、リサイクルが容易で安全に使用出来る、とのことです。GMGの発表では2021年の第4四半期に顧客向けテスト用コイン電池のプロトタイプ 製造する、としています。GMGはトロント証券取引所のTSXベンチャー市場に上場している会社です。自動車のEV化だけでなく、再生可能エネルギーへの転換で必要とされるLiBの材料量は欧州だけでも膨大で、需要を賄えるのか、リサイクル材利用が可能なのか、卓上の議論だけでなく、現実的にはLiB以外の新しい蓄電技術が必要とさている認識が高まりつつあります。
▶ https://www.pnnl.gov/news-media/pnnl-invention-reduces-risk-battery-explosions
金属と鉱業の国際的大手企業である英「リオティント社」が、スロバキアのバッテリー研究開発及び、製造会社の「InoBat社」とセルビアでのバッテリー製造とリサイクルを確立するための覚書を締結した、と発表しています。リオティントは既にセルビアのジャダーにおけるプロジェクトに2億米ドルを投資する事を決めており、約55,000トンのバッテリーグレードの炭酸リチウムを生産する事を目論でいます。
▶ https://www.riotinto.com/news/releases/2021/Rio-Tinto-partners-with-InoBat-to-explore-innovative-lithium-battery-initiative
化学製品や持続可能な技術を開発する英国の多国籍企業である「ジョンソン・マッセイ」が英国のオックスフォードに新しい最先端のバッテリーテクノロジーセンターを開設する事を発表しています。ジョンソン・マッセイは今年に入り、既にリチウムイオン電池のリサイクルの為に「Stena Recycling社」と、電池用の重要な原材料の供給確保の為にフィンランドの「Finnish Minerals Group」と戦略的パートナーシップを発表したばかりです。欧州では今年に入り「電池の材料確保」が最大の戦略的テーマになっており、毎週のように協業や新規投資の話題が提供されています。
▶ https://matthey.com/en/news/2021/btc-opening
欧州で一番のニュースは、スイスがEUとの包括的な二国間協定の修正更新協議を一方的に終了した事です。この包括的な協定(条約)は1970年代初頭から双方が締結した100以上の個別の二国間協定に代わるパッケージ条約として交渉が続けられてきました。それらの100以上のニ国間協定が既に時代にそぐわず古いものである為です。スイスはEU規則(規制)の大部分を適用している為、EUの単一市場の事実上のメンバーとほぼ同じ扱いでした。しかし、新しい条約を採用しない場合には今後は時間の経過と共にスイスがEU単一市場へのプレゼンスを危うくする可能性があると指摘されています。スイスは、EU市民がスイスでの移動、就業、居住の自由を享受する権利が拡大される事を嫌い、EUの市民権指令(CRD)賃金保護、国家援助条項の免除を求めており、これが交渉撤退の最大の要因のようです。イギリスによるEU離脱の時も同じでしたが、EU単一市場の裏側には政治家やメディアが語りたがらない「失業と貧困の移動」という側面があり、イギリスのようにコモンウェルスが54ヵ国もあり、スイスのように世界のお金の逃げ場所である「特権的地位を持つ国」にとって、独立性の担保が無い規制は受け入れ難いという事です。
▶ https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/statement_21_2683
ベルギーによるパーム・バイオ燃料輸入禁止に対する産地マレーシアの反応です。既に関係者はご存知かと思いますが、EUの数か国とパーム油産地であるインドネシア、マレーシアとの確執が続いています。パームディーゼルの輸入制限は欧州各国で増加しており、ドイツでも2023年からパームディーゼル燃料を混入する事が禁止されます。ガソリンに混入するバイオアルコールは原料により性質の変化がありませんが、ディーゼルの場合は原料の農作物によって性質が変わる為、代替えとなるものが決まります。今後、バイオディーゼルはパーム油ベースのものが無くなると(主に米国産の)大豆ベースになっていく可能性があります。
▶ https://biofuels-news.com/news/malaysia-backs-cpopcs-objection-to-belgiums-palm-based-biofuel-ban/
「全米商工会議所財団」が新しい持続可能なプラスチックイニシアチブを開始し、ウェブサイトで発表しています。このイニシアチブでは、材料に廃棄物や廃棄材料の再利用を含めたプラスチックのサプライチェーン全体にわたるイノベーションを探求するものです。このイニシアチブでは、イノベーションを拡大、投資を結び付ける(マッチング)為に必要なサポートツールを提供する、としていますが、詳細は個別の担当フェローと協議する事になるようです。
▶ https://www.uschamberfoundation.org/blog/post/plastics-innovation-can-create-opportunity-business-and-environment
2030年までにEU内の全てのプラスチックパッケージはリサイクル可能、又は再利用可能である必要があります。生活用品等のディスペンサーの世界的リーダーである「Aptar Group」が、同社初の完全にリサイクル可能なPEのみで作られたポンプ容器を発表しています。「フューチャー」と呼ばれる美容及びパーソナルケア業界向けのボトル式のポンプです。このポンプボトルはPEのみで作られています。通常、ポンプの耐久性を上げる為に「ばね」には金属を使い、密閉シール性を上げる為にフタとの密着部には軟質ポリマーを使う事が多いのですが、同ボトルは単一のPEだけで作られています。単一ポリマーのみで作られたポンプボトルは既に存在しますが、同製品はヨーロッパで生産する為に、国際的な持続可能性と炭素認証(ISCC)を取得しています。
▶ https://www.aptar.com/products/personal-care-home/future/
▶ https://www.businesswire.com/news/home/20210526005198/en/Aptar-Introduces-a-Fully-Recyclable-Mono-Material-Pump
環境ニュースとは全く関係ありませんが、オリンピック開催の最終的そして絶対的決定権を持つコムキャスト会長のブライアン・ロバーツ氏は3月末のコムキャストのオンライン決算発表で「オリンピックは開催・キャンセルの話をする時期はとっくに過ぎており、『どう行うか』という問題だけだ」と断言しています。これを受けて欧州のオリンピックの保険会社である各再保険(ミュヘン再保険等)や最大のロイズの株も上昇、IOCの大幹部も口が裂けても「キャンセル」といえない状況が既に生まれていました。