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特別コラム:欧米で急速に進む「重要な原材料法」と鉱物サプライチェーンのナショナリズム化
2022年12月7日、米国共和党のダン・サリバン上院議員とミット・ロムニー上院議員が、「重要鉱物独立法案(Critical Mineral Independence Act of 2022)」を議会に提出した。法案提出時にロムニー上院議員が出した声明では、銅、リチウム、コバルト等の鉱物資源を安全保障上問題のある国に依存する事を避けるべきであり、同盟国を含む米国内でのサプライチェーン再構築と処理能力の強化を強調した。事実上、サプライチェーンからロシアや中国等を排除するという内容である。
2022年9月14日、欧州政府は「重要な原材料法(CRM法:Critical Raw Materials Act)」を制定する事を発表した。欧州には既に「重要な原材料リスト」が存在する。
このリストに戦略的に重要な鉱物を加え、資源確保の為、探査、採掘、精製、リサイクルに至るまで全てを支援及び規制するのがこの法律の目的である。この法案には4つの指針があり、
1)戦略的に重要なアプリケーションに焦点を当てる事
2)欧州機関のネットワークを構築する事
3)紛争や災害等の問題が生じても、回復力のあるサプライネットワークを構築する事
4)持続可能性と公平性を高いレベルで維持出来るものである事 が示された。
この法律について、欧州委員会のピーター・ハンドリー委員は、アルミ二ウムが含まれる可能性を示した。アルミ二ウムは、ごく一般的に手に入る非鉄金属であるが欧州ではロシアへの依存度が比較的高い事もあり、より域内での金属スクラップ流通を促す狙いがあるものと見られている。
2022年8月、米国で「インフレ削減法」が成立した。この法律は、名前はインフレ削減法だが、実態は気候変動対策に関するものが主流で、特にEVへの税控除に関する部分で資源ナショナリズムを促している。
EV購入時に受けられる最大税額控除$7,500の条件にはバッテリーの重要な鉱物の産地要件($3,750分)とバッテリー・コンポーネントの北米製造比率($3,750分)の2つが満たされる必要がある。
それらの比率は段階的に高められる事が決まっている。バッテリーの重要な鉱物の産地要件については、2026年以降、米国と同国の貿易パートナーシップのある国からの調達を80%以上にする必要があり、同じくバッテリー・コンポーネントの北米製造比率は2028年以降、100%北米産とする必要がある。これはバッテリーのバリューチェーン全体から中国やロシアを排除するという目的があると同時に、使われる鉱物をより内部に留保するという狙いがある。
2021年12月、欧州委員会は「廃棄物輸送指令(WSR: Waste Shipment Regulation)」の改正案を提示した。最大のポイントは「廃棄物」の定義を一元化し、選別された金属スクラップを域外に輸出する場合の規制を強化し、域内での移動や取引を緩和するものである。表向きは環境保護と持続可能性を強調した法案となっているが、真の狙いは化石燃料の排除で益々需要が拡大している銅、アルミ、ニッケル、レアメタルやレアアース等の金属スクラップをEU域外に出さない事にある。
この指令の改訂案は2023年1月に欧州議会で採決にかけられる予定であるが、既に2022年12月に欧州議会の環境・公衆衛生・食品安全委員会(ENVI)が、金属スクラップの非OECD諸国への輸出を大幅に強化する事で改定草案を採択している。
過去1年、欧米では上記の様な新たな「資源ナショナリズム」が政策として打ち出され、それらには、金属スクラップのリサイクルや域内確保という、今までにない規制が盛り込まれている。
欧米は現在高いインフレに苦しんでいる。実はインフレはロシアがウクライナに進行する前から起きており、その原因の1つが「グリーンフレーション」と呼ばれる電化に必要なインフラ整備に使う原材料の銅、アルミ、ニッケル、レアメタルやレアアース等の金属価格の高騰と入手性の問題があった。そこにウクライナ紛争によるサプライチェーンの分断が重なり問題が一気に深刻なものとなって解決策が容易に見つからないという事態が起きている。
欧米先進国はWTOを舞台に自由貿易を推進し、国際化による投資の拡大と相まって世界経済の規模拡大に大きく貢献してきた。より安価で短期に利益を生み出すサプライチェーンはBRICsを始め一部の資源国や地域への依存を高め、安全保障を犠牲にしてきた経緯がある。今、それが巻き戻される中で、域内にあるリサイクル金属が重要な原材料となり、過去に経験した事の無いレベルで規制が掛けられ始めたのである。
この点にいち早く反応して規制強化を進めているのが、自由貿易と国際化を推進してきた欧米先進国という事が、皮肉な結果と見えなくもない。