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特別コラム:発電用「輸入木質ペレット燃料」の終わりの始まりか?
2022年9月14日、欧州再生可能エネルギー指令の改定案(RED III)が欧州議会で採択された。
最も物議を醸してきたテーマの1つに、発電用燃料製造の為に健康状態の木を伐採する行為の取り扱いがあった。
該当する部分のバイオマス最終改定案は下記のEuractiveのリンクから入手できる。
▶ https://bit.ly/3DvQ5ga
この条項により、一次木質バイオマスを利用した発電エネルギーが「再生可能エネルギー」と見なされなくなり、自動的に再生可能エネルギーの補助金の対象外となる。 ただし、一次木質バイオマスの発電利用そのものは即時禁止となっていない。また、一次木質バイオマスに該当しない木質バイオマスは、引続き再生可能エネルギーの燃料として認められる事になる。
改定案では、「一次木質バイオマス」の利用量の上限も設定されている。具体的には2017年から2022年までに使われた「一次木材バイオマス」の平均量を算出し、それ以上の量を利用できないようにした事である。更に2030年までに、一次木質バイオマス由来の燃料の割合を段階的に削減する事も盛り込まれているが、その時期と割合は特定されておらず、今後欧州委員会が主体となり決めていく事となった。
欧州の制度上、立法には、議会の議決後に欧州理事会の交渉と採択が必要となる。 上記の欧州議会による改定案の採択に対し、環境団体は失望と一定の評価、木質ペレット製造企業は歓迎と懸念、欧州のバイオ・エネルギー団体であるBioenergy Europe(バイオエナジー・ヨーロッパ)は評価しつつ重大な懸念を表明している。
▶ https://bit.ly/3S9LXX7
特に一次木質バイオマスの定義と基準については、今後も議論が続くと思われる。
もともと、2021年1月25日に欧州委員会が発行した「EUのエネルギー生産における森林バイオマスの利用」という公式調査報告書では、森林バイオマスの燃焼は収穫残渣や枝葉を一定の条件で利用する場合以外に、全て環境影響があり、ほとんどがカーボン・ニュートラルで無い、と結論づけていた。
▶ https://bit.ly/3dO4lCG
この調査結果に端を発して、欧米では利害関係者による当局への猛烈なロビー活動が始まり、環境活動団体による利害関係者への攻撃が増す、という現象が起きてきた。 今回の欧州再生可能エネルギー指令の改定案は、政治的に両者のバランスを取った結果となった。欧州のグリーン政策は、科学的検証で決まるのではなく政治的バランスで決まるという、繰り返される事例となったのである。欧州ではバイオマスのエネルギー利用をめぐりEUタクソノミーからの除外を請求する裁判にまで発展しており、今後も政治問題であり続ける事は間違いないと言われている。
▶ https://bit.ly/3BlQAGL
しかし、地産地消でない「発電用の輸入木質ペレット」は再生可能エネルギー源としての「終わりが始まった」という見方をしても良いかもしれない。英国が海外から輸入する1,000万トン近い木質ペレットは、全量を木材残渣や間伐材から製造することは物理的に不可能であり、補助金が無ければ発電事業者の事業は成り立たない。日本が輸入する300万トン以上の発電用木質ペレットも同じく、全量を木材残渣や一次木質バイオマスに該当しないものから製造する事は困難と考えられる。海外の大手木質ペレット製造企業は、以前は全く行っていなかった健康な状態の木の伐採を行わない事を宣伝し始めているが、デューデリジェンスに関しての問題が残っている。木質ペレットの製造や輸送時の温室効果ガスの発生を考慮した場合、「クリーン」では無い事は、先の欧州委員会による公式調査結果が結論づけていた。 ただし、英国も日本も欧州再生可能エネルギー指令の管轄外にある為、石炭以上にライフサイクルで温室効果ガスの発生が多いと言われる一次木質バイオマスの輸入ペレットを「再生可能エネルギー」のまま温存し、納税者による補助金を海外木質ペレット製造企業に提供し続けるであろう。